第4話 シングルベッドの上で

首藤盛重がウォンジュンの家に住み始めて間もない頃、彼はウォンジュンが使っているシングルベッドの上に一緒に寝かせてもらっていた。ただし身長180cmを超える男2人にシングルベッドは狭く、仰向けに寝ればどちらかが落とされかねなかったので、身体を横向きにして身を寄せ合わさざるを得なかった。






夏が近づいてきたある夜、妙な暑苦しさで目覚めた盛重は、ルームランプの薄明かりがボンヤリと照らす視界の中で、自身の腕に背を向けたウォンジュンの身体が収まっているのを目にした。

なんでなんだ。眉をしかめる盛重をよそにウォンジュンは寝息を立てている。すぐ目の前の後頭部からか、それとも身体からか、ソープの優しい香りが漂って妙に心地好いのが憎らしい。

全体的な身体の線も細いし、女の子と寝てるみたいだ。最後に女の子に触れたのは一体いつだったか、そもそもそんなことあったかと寂しい回想をしていると、ジワジワと下腹に心地好い昂りが訪れ始めた。

お前マジでこんなところで、ホントお前マジで。トイレで済ませようかと思うものの、左腕がウォンジュンの胴の下敷きになり引き抜くことができない。ならばここで覚まさなければと頭を巡らせれば、余計に意識が集中して昂りが強くなる。

ふと、盛重はウォンジュンと出会った当初に彼が言っていたことを思い出した。


『寝待ちの人じゃないんですね?』


ウォンジュンは性的な目的を持って盛重に声をかけた。今でもその目的が潰えていなければ、もしかしたら今。


「ジュニ…ジュニ」


囁きかけるように愛称を呼びながらウォンジュンの細い身体にひしと取りつき、空いた右腕でウォンジュンのウエストを撫で回す。自分の腹とは違いウォンジュンには腹筋の隆起が無く、スベスベとして柔らかい。


「ジュニ、起きて、ジュニ。ジュニ…」


昂りが強くなっていく身体をウォンジュンに押し当て、ひたすらに呼びかける。早くこの心地好い苦しみから解放してくれと懇願するが如く。

そうしてウォンジュンの腹を撫でていた右腕を肩まで滑らせた時、その指先の鬱血したような赤黒さを目にして、盛重はスッと血の気が引くのを感じ手を離した。身体の昂りも嘘のように覚めていく。

ウォンジュンは優しいが、だからこそ不安になる。一緒に暮らすだけならともかく、この手で身体の秘められた部分まで触れられるのは内心嫌なんじゃなかろうか。ウォンジュンから声をかけられたのが身体の痣を晒す前だったことを思い返し、盛重は自身の行動を猛省した。


「ジュニ、ごめん。おやすみ…」


盛重はウォンジュンに下敷きにされていた腕を無理矢理引き抜き、彼に背を向けて眠りについた。微睡みの中で、衣擦れの音とフローリングをヒタヒタと歩く音が聞こえた。




それからあまり日を経たずしてウォンジュン宅のシングルベッドは引き払われた。代わりに置かれたのはキングサイズの大きなベッドで、男2人が寝てもゆとりを持てるようになった。

しかし、相変わらず盛重が目覚めると腕にウォンジュンが抱かれており、その度に盛重は心地好い昂りと罪悪感に苦しめられるのだった。

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