第9話 沈黙は恐怖、欲望は奈落、復讐は空虚

 私は支配者となった。

 誰もが逆らえるはずのないほどの―…。

 ちなみに、私はトップではない。

 だけど、実質上はそうだ。

 全員、私に逆らう者は消されるから、酷い目に遭うことがわかっているから、沈黙する。

 そうだ、それで良い。

 お前らは、私のように正しくもなく、私のように完全な存在でもない。

 だから、黙っていれば良い。

 大人しく従っていれば良い。不満に思おうが―…。

 ほら、私はお前らを幸せにすることができているだろ。

 私の周りには富が集まり、私にこうべを垂れ、擦り寄る者たちには分け前をほんのわずかだけどやろう。

 私を苦しめるものから守ってくれよ。

 お前らが、私から利益を欲するのなら―…。

 そして、裏切るのなら、怒りの業火によって、燃やし、見せしめにしてやろう。

 素晴らしいだろう。

 こんな素晴らしく幸せな世界はないだろ。

 賛同してくるよな。賛同しなければ、消すのみ。

 そうだ、それで良い。


 私が滅ぼしたい者たちは滅び、私が欲しいものはすべて私のもとへ―…。

 私以外の誰かが所有しているものであったとしても、捧げよ。

 拒べばどのようになるのか? 教えてあげよう。

 お前がこの世からおさらばすることはない。お前の大事なものをそのようにすれば良いのだから。

 お前に、楽になって、この世界からのおさらばはさせない。

 私のもとで、玩具として、私がいらないというその時まで、私のために動かないといけない。

 欲しい、欲しい、欲しい、欲しい。

 あれも、それも、欲しい。

 いらないものは捨てる。

 そうだ、私に提供しろ。

 私を満足させろ。

 そうだ、それで良い。


 私は、今、銃口を突きつけられている。

 どうしてこうなった。

 どうして。

 私は、こんなにもお前らを幸せにしてきたというのに。

 理解できないわけないだろ。

 

 「お前が私の人生を奪った。許せない!!」


 はっ、何を言っている。

 お前は幸せだったろ。

 どうして。

 どうして、銃口を私に向ける。

 おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかっ。


 この傲慢な男は、一人の女の銃口により、命を終えた。

 女にとって、復讐でしかなかった。いっぱいの幸せを奪われたことに対する―…。

 だけど、女に返ってくることはない。その過去の日々は―…。

 奪われたらいけなかったのだ。

 女は、空虚となる。

 まさに、泣き寝入りと何も変わらない結末に―…。


 そして、男は奪うことしかできなかった。

 奪うことで幸せになった。

 欲望? そんな際限のないものに身を溺れさせてしまったせいで―…。

 自分の幸せ以外に、何も聞こうとしなかったせいで―…。

 自分のために、周囲を黙らせたせいで―…。

 あ~、何て愚かなことだろうか?

 そう、君たちもまた、その愚か者の一員だ。

 君たちは気づきもしないだろうが―…。

 誠に残念だ。

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