第8話 落ちる
誰かを蹴落とさなければ這い上がれないのなら、俺はそうする
だって、そうだろ
自分の命を守れない者が、他者の命を守れるはずがない
いや、そんなことはどうでも良い
俺はこんな善人でもないし、俺が最も求めているのは、自分の名誉、地位、権力
これほど美味しい果実はないだろ
上手いのだ
本当に、一回食べてみ
もう二度と、その果実なしでは生きられなくなるから
ああ、欲しい
今日もその果実を独占するために、俺は周りで危険な存在を蹴落とす
優越感に浸っている
このお湯は、本当に良い湯加減をもたらしてくれる
ずっと、ここにいたい
ここから出るのは愚か者がすることだ
何をしても許されるのだから
望めよ、望めば叶うのだから
ああ、ああ、今日も浸っている
ある日、俺は何者かによって追い出され、挙句の果てに奈落の底に落とされた
どうしてだ、どうしてだ
理解できない
奴は言う
「お前のせいで家族を奪われた。地獄に落ちろ」
ああ、お前は頭がおかしいのではないか
お前なんて一度も見たことねぇーよ
ふざけるな、ふざけるな!!
俺は、俺は、誰も羨むほどの地位、権力、名誉を手にしてるんだ
お前のような恩知らずは、もしも俺が助かった時、協力した者すべてをこの世から去らせてやる!!
俺には権力があるんだ
俺の思い通りにならなければ、世界にも人にも価値はない
「お前は奪った。だから、奪われても文句は言えないよな。」
ふざけるな!!
俺は―…
意識をなくし、その男は死した
男は、自らの行動がどのような結果をもたらしていたのかを知ることなく
ただ、男の足首には、これまで蹴落としてきた者たちで作られたロープが纏わり付いていたのだ
いつか、自分達もとへ落下してくるように―…
落ちる、落ちる
いや、堕ちていたのだ
男は、蹴落としたその時から―…
ああ~、人生とは儚い
人の夢など儚い
欲望は心を汚し、理性は基準を変えた
さようなら
落ちゆく人々よ
お前らのすべてが滅ぶその時まで、落ちていく
何かをし、何もできずに
私はただ、滅びゆく者たちを見続けるのだった
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