第2話 過去にすがることに抗う

 過去はおいしい

 おいしいのだ、本当に

 ああ、何もしなくてもいい

 過去からの決まりさえ守っていればいい

 なんて楽なことだろうか

 なんて気持ちいいことなのだろうか


 だけど、そんなことをずっとし続けることを許してくれない

 世界は、未来へ進まないものを殺そうとする

 滅びという言葉で呼ばれるそれに


 ああ、私は見ている

 過去にすがり、定められた運命に抗うことのなき者たちを

 彼らは、己の愚かさというものに気づくことすらなく

 考えない、考えない、言われた通りにしていればいい

 なんて言葉で人に考えることも、悩むという人生で豊かなことをさせようとしない

 苦しむということを

 苦しむからこそ得られるほんのわずかなことに幸せを感じられるということを

 苦しみという贅沢を許してくれない

 許される苦しみは、己のせいにしろという言葉と貧しくなるという苦痛

 私はただ生きたいのではない

 ただ生きたうえで、よく生きたいのだ


 これ以上、私の望みを言っても仕方ない

 

 私は立っている

 私の足はベルトコンベアの上に

 それが滅びへと私を流そうとしている

 そこには行きたくない

 だから、私は抗う

 運命に抗うことなき者たちが、そこにある滅びに気づかず流れていくのを見ながら

 それも笑顔なのだ

 自らの繁栄があるのだと信じて

 まさに、そんな薔薇色の幸せが待っていることを、さも定められた自らの運命だと思って

 愚かだ、愚かだ、愚かだ

 声を大きくして言ってやりたい

 言っても、聞こえない、聴こえないのだ

 夢という名の補聴器で耳を塞いで

 人の夢など儚いのに

 

 彼らは、滅びへと向かうベルトコンベアに乗れという

 そこには幸せがあるからだと

 そこに幸せがないのはわかる

 だから、私は抗おう

 過去を美化し、濁を飲めない彼らの言葉に耳を貸さず

 そう、滅びへ向かうベルトコンベアで、滅びとは逆の方向へ向かって

 滅びへ近づいてしまったのならば、悲しみ

 滅びへ遠くなっていくのであれば、喜び

 喜怒哀楽、そんなすべての四季という名の季節が存在する人生を

 

 私は進む

 過去を美化し、濁った水を飲めない彼らが目指す反対の道を

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