SSS黒い獅子と金の龍

石黒陣也

黒い獅子と金の龍

拳を持った男はある夜。黒い獅子出会った。

黒い獅子はこう言った。


「我と相対せ。さすれば力を与えん」


力を欲していた男は黒い獅子と戦い、敗れ食われた。


男の体は黒い獅子の血肉となり、魂は天へ昇る。


男が魂だけとなりて、天へ昇る途中。金の龍と出会った。

金の龍はこう言った。


「我と相対せ。さすれば生を与えん」


男は金の龍の申し出に望み、相対した。


金の龍を、男は恐れなかった。

なぜなら黒い獅子に食われ、すでに恐れを凌いでいたからだ。


そして金の龍を見事倒し、新しき生を持って、男は赤子の体を得た。


赤子となった男は、再び拳の修練をする。


男が赤子から幼年へ、幼年から少年へ、少年から青年へ


青年から壮年となった頃、再び黒い獅子と出会った。


黒い獅子はこう言った。

「我と相対せ。さすれば力を与えん」


再び向かい合った黒い獅子へ、男はこう言った。


「私はもう、お前と相対した。故に金の龍と出会い、それを倒し。大きな力を得た」


男がそう答えると、黒い獅子が言った。


「そうだったか。ならばもう、お前には用は無い」


消え去ろうとする黒い獅子。


だが男は、黒い獅子を呼び止めた。


「まて、黒い獅子よ。あの時の、生きたまま食われた恐怖、忘れはしない……ここでお前を倒す」 


言葉の通りに、男は己の力を持って黒い獅子を倒し、

黒い獅子は死に際にこう言った。


「汝に力を与えたことは間違いであったか」


男は答える。男は物悲しい顔をしていた。


「過ぎた力を持っても、虚しいだけであった。並んでくれる相手も、向かい合える相手もいない……黒い獅子よ、何をもってそうするかは計り知れぬ。だが、もう終われ……金の龍が、待っているぞ」


黒い獅子は男を見ながら、ようやく安心した面持ちで死を迎えた。


生まれ変わり、大きな力を得た男は、最後まで孤独でいるしかなかった。


しかし男は、黒い獅子という最後の友を、生涯忘れることは無かった。

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SSS黒い獅子と金の龍 石黒陣也 @SakaneTaiga

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