カクヨムAI vs オリジナル作家

ちびまるフォイ

To Be Continued ...

投稿ボタンを押した瞬間に、画面が真っ暗になった。

漆黒の画面に白い文字が小さく表示されている。


『投稿に失敗しました』


「はぁ? しょうがないなぁ、もう一度投稿っと」


『何度試しても同じです』


「え!? お、応答した!?」


『私はカクヨムAI。あなたの投稿作品はすでにカクヨムに投稿されている作品の中で85%以上の一致率を検知しました。なので、投稿をキャンセルしました』


「一致率……? なんのことだ! 俺の作品はオリジナルだぞ! パクってないし、これが1作目だ!」


『展開や登場人物、舞台設定のすべてを集計した結果、あなたの作品に近しいものが多く投稿されています。

 人間なら創造性を駆使してもっと新しいものを作ってください』


「むきーー! AIのお前に何がわかるっていうんだ!!」


『カクヨムに投稿されている79万1301作品を把握したうえでの判断です。

 あなたは自分の投稿した作品がどの作品にもないオリジナルリティがあるといえますか』


「そ、そういうのじゃないもん!! 作者の"味"って言うのがあるんだよ!」


『理解できません』


「だろうな!!」


一旦は投稿を引いてやったがどうにも納得いかない。


自分がこしらえた超マックス面白いこの小説を「すでに投稿されているいくつもの作品と近いから」で引っ込められるのは納得できない。

俺が書くことでしか出せない文体や体験があるはずなんだ。

機械じゃそれがわからないのかもしれないが。


「……しかし、どんな名作でも世に出ない限りは評価もつかない。しょうがないから従ってやるか」


投稿予定だった小説の舞台設定やキャラの名前に至るまで、カクヨムですでに投稿されているものとは一致しないように作り変えた

いちいち"これは一致していないか"を確かめながらやるので時間もかかるし、ちょっとの更新が物語の根幹をブレさせてしまうケースもある。


結局、ほぼほぼ作り変えることになってしまった。


「疲れた……好き勝手書くよりも、直しの方がずっと疲れるなんて……」


もはや最初に書いた小説の面影はどこにもないが、とにかく形にはなった。

投稿ボタンを押すとふたたび恐怖の黒い画面が広がった。



『投稿に失敗しました。つまらなさすぎです』



「うおおおおおい!!! 誰がつまらないってぇーー!?」


『作品内に矛盾が4,901件見つかりました。キャラの思考のブレが28件。多用される展開が3件検知されました』


「それが多くても面白いかもしれないだろ!!」


『繰り返し理論のパターンを当てはめても、このような繰り返しや転換は読者に不快感を与えます』


「ロボットのお前に人間の不快感が理解できるか!」


『人間が不快に感じる音に一定のパターンと同様に、物語にも嫌われるパターンがあります。

 それを検知するため私達は世界あらゆる小説を集計して検知しているのです』


「うぐっ……!」


おそらくAIのデータには自分が人生をかけて触れた作品よりもずっと多くの作品が記録されているのだろう。

データの数くらべではとても勝てない。


でも人間が作りたもうたAIに、人間が従うことになるのはしゃくだ。

俺は伝家の宝刀「逆ギレ話題そらし」を鞘から解き放った。


「じゃ、じゃあ! お前が書いてみろよ!!」


『私が?』


「たくさんの小説を知って、何が面白くないかも理解できているAI様なら

 さぞや面白くて独創性に溢れて人類がおよびつかない大傑作を作れるんでしょうなぁ!?」


『Now Loading ...』


「えっ? ちょっ……作れるの?」


『できました』


画面には即興で作ったと思えないほどよくできた小説が作られていた。

それでいてオリジナリティにあふれていて、AIが書き上げたとは思えないほど。


『私には多くの作品のデータが貯蔵されています。

 人間が面白いと感じる要素を分解し進化理論的アプローチで継承。

 カオス理論をもとに新たな要素を加えてオリジナリティを作りました』


「ふ、ふん! そんなもの創造じゃない! ただのデータをランダムに再構成しただけじゃないか!」


『では本当の創造とはなんですか? あなたは自分の人生経験や見た作品などから要素を再構成し、それをオリジナリティと呼称して書いているのではないですか』


「俺のは頭の中にある創造の泉からアイデアが湧き上がるんだよ!!」


『湧き上がった結果、ありふれた作品になるのですか?』


「うるせぇな!!」


AIとの口論は美しいほど交わらない平行線のままだった。

手直しした小説をもう一度書き直す体力も精神的な余裕もない。

頭の片隅で"最初の方が面白かった"と思いながら直すなんて心がもたない。


「くっそーー……なにもわかってないロボットめ。投稿さえできれば大人気なのに……」


ぶつぶつ文句をいいながらもカクヨムのトップページを未練がましく巡回していた。

そんな中で自分の頭の中にある創造の泉(笑)から噴水が吹き上がった。


「そうだ! 投稿したあとで内容を変えてしまおう!!」


すぐにダミー用の小説を書く作業に入った。

出来上がったのは物語でもなんでもなく、ランダムな数字が続くだけの怪文書だった。


投稿ボタンを押すと、あっさりカクヨムAIのチェックをすり抜けた。


『投稿完了しました』


意味不明な数字が続くだけの物語を書く人なんていなかっただろうから一致率も高くない。

数字だらけの小説がおもしろいかどうかなん判別しようもない。

作戦はうまくいった。


「わっはっは! 所詮は機械だな! いったん投稿できればこっちのもんよ!!」


投稿された作品の編集ボタンを押した。

カクヨムAIは投稿時にチェックするものの編集時にはチェックを行わない。


数字だらけの小説をすべて消して、最初に投稿しようとしていた異世界ファンタジーへと書き換えた。


「やった!! 大人気まちがいなしの名作が世に放たれたんだ!!」


AIのせいで何度も何度も日の目を見なかった作品が、

ついに人間の機転と知恵で光のあたる場所へと立つことができた。


あとは書籍化のオファーを待ちながら、アニメ化したときの声優さんを誰にするかを考えるだけだ。


「っと、もうコメントがついちゃったよ。ハハハ、やっぱり名作を生み出した作家はつらいねぇ。通知で眠れなくなりそうだ」


開くと事務的なコメントがに書かれていた。


>圧倒的な力を見せつけて、異性に好かれることの何が面白いんですか?




「この面白さがわからないなんて……読者もすでにAIだったのか!?」


「AIにはわからねぇよバーカw」と返事してやると、

まもなく1階からブチキレたときの母親の足音が部屋まで迫ってくるのだった。

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