SS真剣! 秋刀魚勝負!

石黒陣也

真剣! 秋刀魚勝負!

「さあ今年もやってまいりました、真剣秋刀魚一本勝負! ここまで勝ち上がってきた魚河岸の武士も、残すは二名。決勝戦であります!」


「今回は優勝候補だと思われた三河屋の大将が負けて波乱の名勝負ばかりですねえ」


「司会はこの参野隆と、実況は秋刀魚竜王のタイトルを持った馬込弘氏、でお送りします」


「さあ、でてきました! 名店銀次郎の三代目! 坂田銀三郎選手! 大柄な体格に、クーラーボックスを引っさげての登場です!」


「彼は去年の準優勝、去年優勝の三河屋との再試合が付けられませんでしたね」


「対するは、新星! まさに流れ星の如く現れ、あらゆる真剣魚類戦のタイトルを瞬く間に総取りした、魚屋小太郎! 都竹小太郎選手 ……凄い歓声です。今注目一番の魚類戦士と言えるでしょう」


「彼の経歴は謎のままだと言いますが、本当にどこから現れたのでしょうかねえ?」


「二人ともリングに上がる! おおっと! 銀三郎選手! いきなり中央に立って両腕を上げる! 早くも勝利宣言か!」


「老舗の一店として、新参者には負けないという気迫が、伝わってきますねえ」


「対して新星魚や小太郎選手は、静かにクーラーボックスから早くも秋刀魚を取り出した」


「にしてもすごい歓声です。小太郎選手のカリスマ性は本物でしょう」

「おお! 小太郎選手の出した秋刀魚は、リングの光も反射するほどの魚。カメラさん、小太郎選手の秋刀魚をアップで撮ってください」


「小太郎選手の秋刀魚は、目が透き通り、やや小ぶりですねえ……いや、これは身が極限まで引き締まっている。これはまさに名刀となるひと品ですね」


「対して前回の準優勝、銀三郎選手の秋刀魚は……カメラさん、お願いしますー。これは大きい! 小太郎選手の秋刀魚に負けず劣らず! さすが名店の三代目、身がふっくら脂が乗りに乗った秋刀魚です!」


「ここまで上物だと、見ているだけで興奮してきますね」

「さあ、世紀の一戦が始まる。二人とも秋刀魚を構えた!」


 カーン!


「始まった! 二人とも構えつつも十分な間合いを取る」

「三代目は慎重ですね。初めて相対する新星に、気を配らざるは終えない、と言ったところでしょうか?」


「ここで小太郎選手が先制を取った! 素早い足運びで銀三郎選手の間合いに飛び込む、だが小太郎選手の一閃は弾かれた! すごいすごい! まるで大剣のようです。銀三郎選手の秋刀魚は身が脂でふっくらしており、小太郎選手の秋刀魚を軽々と受け止めた!」


「大胆な攻撃でしたね、相手の力量でも測ったつもりでしょうか」


「小太郎選手! 思わず飛びのいて再び距離を取った! 銀三郎選手、余裕の表情です! 名店三代目は伊達じゃない!」


「良いですねえ、この空気。私も頂上に立つ選手として血が滾ってきそうです」


「凄い気迫の応酬。近づいては離れ近づいては離れ、お互いに距離を保つ。竜王氏さん、これはどういった状況でしょうか?」


「ふむ、やや小太郎選手に不利、といったところでしょうか? かといって彼はここまで駆け足の如く様々なタイトルを取ってきた新星。三代目銀三郎もなかなか近づけないという状況ですかねえ?」


「なるほどなるほど、三代目銀三郎も堂々と秋刀魚を掲げる。さすが王者の一人。その姿は重戦士のようだ。対して小太郎選手はその軽いフットワークを生かして攻撃のチャンスを探る……と思えば! また小太郎選手が銀三郎選手に襲い掛かる!」


「素晴らしい太刀技ですね。秋刀魚がリングの光を反射して、まるで剣先が見えるようです」


「銀三郎選手は堂々と小太郎選手の攻撃を受け取る! 弾く弾く! 小太郎選手の連撃をその脂の乗った身で弾き返す! これは凄い! これが王者の風格か! 一歩も引かない!」


「魚選びは選手の生命線ですからねえ。きっと攻撃的なスタイルの小太郎選手にあわせてきたのでしょう。素晴らしい身の捌き方ですねえ」


「小太郎選手! さらに秋刀魚を逆手に持って激しく攻撃する! だがそれでも銀三郎選手の秋刀魚は一歩も引かない!」


「銀三郎選手は何かを狙っているようですね。まさかあの技を繰り出すつもりでしょうか?」


「おおっと、ここで銀三郎選手が秋刀魚を高々と掲げた!」


「早速でますか、名店銀次郎の奥義!」


「出た! 名店奥義! 『水流竜巻崩し!』もの凄い勢いで秋刀魚を振るう! それはまさに激流に乗った秋刀魚の如く! 凄まじく小太郎選手の秋刀魚を押しています!」


「さすがにこれを受けてしまえば、小太郎選手の秋刀魚もぼろぼろになってしまうでしょうねえ……」


「おおっと! 小太郎選手! 持ちこたえた! 銀三郎選手の名店直伝奥義を持ちこたえた! なんだ! 彼の秋刀魚は! それでもその身から光が消えない! 銀三郎選手の奥義は無駄だったのか!」


「いえ、ちょっと待ってください。小太郎選手の秋刀魚が口を開いています!」


「なんと! 奥義には持ちこたえたものの! 小太郎選手の秋刀魚が口を開いてしまった! これでは鮮度が落ちてしまいます! 銀三郎選手の奥義は確かに小太郎選手の秋刀魚に伝わっていたのか!」

「これは致命的ですね。小太郎選手は次の攻撃にはたして耐えられるのでしょうか?」


「更に攻める攻める! 銀三郎選手! 小太郎選手の秋刀魚にどんどん致命的な傷を付けていく!」


「これでは鮮度が保たれなく、小太郎選手の負けは必至ですな」


「だが、銀三郎選手が何かに気づいたように大きく飛び退いた! 何が起こった?」

「小太郎選手が、余裕の笑みを浮かべておりますね」


「これは一体どうした? 攻め続けられ鮮度を削られた小太郎選手の方が、余裕の笑みを浮かべている! これはなんだどうしたのか!」


「小太郎選手の動きが変わりましたね。ゆらゆらと体揺らしています。……これはまるで海面のように……こ、これはまさか!」


「竜王氏、どうしましたか!」

「これはまさか、あの技なのか!」


「竜王氏がうろたえて……おおと! なんだこれは! 小太郎選手! 秋刀魚を水平に持ったまま、素早いフットワークで銀三郎選手に近づいて行く!」


「やはりこれは、まさかこの時代でこの技が見れるとは!」

「どうしたのですか竜王氏!」

「あの技が! 現代に蘇るというのか!」


「竜王氏、落ち着いてください! 小太郎選手は何を出そうというのでしょうか!」

「見ていなさい、彼の技、いや、奥義を!」


「なんですって? おおーっと! 小太郎選手が飛んだ! いや飛び跳ねた!」


「これです! これがかつて四百五十年前に、当時の竜王が振るっていた秋刀魚捌き! その名も『飛魚三段鰹節!』」


「飛魚なのか鰹なのかが分からない! だが物凄い太刀捌きだ! 小太郎選手のその動き、もはや飛魚の如し! 秋刀魚を放つその重低音はまるで鰹の剣撃の音! これはまさかまさか!」


「……勝負がつきましたな」


「あー、銀三郎選手の秋刀魚が! 綺麗に三枚に下ろされた! すごいすごい! ものの数秒で銀三郎選手の秋刀魚を三枚に下ろしてしまった!」


 カンカンカーン!


「勝負あり! S(新鮮な)S(魚で) S(真剣勝負)秋刀魚一本勝負の優勝者は! 

新星魚屋小太郎! 都竹小太郎選手の勝利になりました!」


「SSSに新たな歴史が……いや、新しい時代がやってきたのかもしれませんね!」


「小太郎選手! 勝利のガッツポーズ! 見事な一戦でした! 素晴らしい! 素晴らしい名勝負でした! 司会はこの参野隆と、実況は秋刀魚竜王の馬込弘氏でした。ありがとう秋刀魚! ありがとうSSSの新星! っと、お時間がやってまいりました。また次のSSSでお会いしましょう!」

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SS真剣! 秋刀魚勝負! 石黒陣也 @SakaneTaiga

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