第19話 復讐のメッセージ

人々が逃げる喧騒の中、僕はまだ、茫然と窓の外を見ていた。




黒い煙は、ゆっくりと灰色になり、そして何事も無かったかのように、


青い空に滲んで消えていった。




誰かが、僕に肘を掴んだ。ゆっくりと振り返ると、


険しい顔をした警備員が立っていた。




「キミも早く、ここから非難するんだ」




僕の耳は、その聴力を鈍らせたままだった。


警備員の声が、くぐもって聞こえた。




僕は警備員に連れて行かれるまま、空港ロビーを後にした。




外に出ると、タクシー乗り場は大勢の人で埋まっていた。


その光景を見てもまだ、現実感が掴めない。




叔父さん夫婦が乗った旅客機が、爆発した。


つい数時間前に電話で話したばかりの、叔父さんと叔母さんが、


爆炎に包まれて消し飛んだ―――。




そんなバカなことがあってたまるものか。




僕は、ディスプレイ・フォンを取り出すと、


叔父さんの携帯番号をタップした。




でも、何のコール音もしなかった。無音。それだけが、


僕の耳にさざ波のように伝播するだけだった。




727便。7・・・2・・・7。




僕の頭脳は別人格になったかのように、


別の思考回路をたぐり寄せていた。




7×2×7・・・98。




違う。




7÷2÷7・・・0.5。




これも違う。




727の二乗・・・528529.




これも違う。




727の√




26.96293752542553




これも見当はずれだ。






僕は何を計算してるんだ?何を探してるんだ?


混乱のあまり、冷静さを取り戻そうとして、


意味のない計算をしているだけじゃないのか?


そんな他愛の無いことでもやれば、この混濁した意識を


正常に戻せるとでも思っているのか?


答えがあると信じているのか?




違う!




もう一人の僕が、この数字に何かの根拠を示している


ことを確信しているように、否定した。




727便・・・727便・・・727便・・・。




単純に考えろ、巧。単純に。




もう一人の僕が、自分自身に語りかけていた。






7+・・・2+・・・7・・・16.




16。




こんな数字に何の意味がある?だが、そう考えた直後、


その数字の意味を、直感的に悟った。




16進数。




僕は、16進数が、何を意味するのかを考えた。






727便に激突した旅客機の機体は確か・・・1111便。




1111・・・16進数に直すと、0F。




Fは藤原の頭文字。




これは偶然の一致なのか?


ぼくには、そうは思えなかった。


というより、確信していた。




僕は途端に笑い出した。涙を流しながら。


答えが、あまりにも単純すぎて可笑しかったからか、


それとも悲しかったからか、パニックを起こしたからか、


自分でもわからなかった。




そんな僕を周囲の人々が、奇異な視線を向けているのも


かまわず、腰を曲げて笑い続けた。






ふいに笑いが消えた。僕は奥歯を噛みしめると、


次の瞬間には、走っていた。




こんなところで、まごついているより、


幹線道路に向かえば、きっとタクシーは拾える。




僕は心臓が破裂する勢いで走った。


息を荒げながら、僕の脳裏をかすめたのは、


これも何の根拠も無い直感が閃いた。






これは『愛』の仕業だ。






この航空機事故で―――叔父さんと叔母さんを殺したのは、


『愛』だ。




これは『愛』から僕への、メッセージだ。




僕への復讐のメッセージだ。






僕は両足をもつれさせながら、必死に走っていた。




頭の中は、愛美のことで、いっぱいだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る