第3話 『愛』とのデート

日曜日、僕はTシャツにジーンズ、スニーカーを履いて


近くの公園に行った。


もちろん、『愛』も一緒だ。


空は雲一つない青空が、広がっていた。




本当は、どこかのレストランで『愛』と


向かい合って、食事がしたかった。


本当にしたかった。




でもそれはできないことも、僕は・・・。




公園はとても広い。僕が住んでるこの都市でも有数の、


人気のある公園だ。


真ん中に大きな池があって、周囲には歩道があり、


その外周にサイクリングロードに囲まれていて、


とてもたくさんの人たちで賑わっていた。




公園の周囲は緑鮮やかな木々がめぐらせてあって、


それが夏の風を、爽やかに柔らいでくれていた。




出店もいくつもあって、ホットドッグやクレープなんかが、


売られてる。僕はアイスクリームを買った。


もちろん、『愛』と僕のとで二つだ。




ただ、『愛』に手渡せないのが、悲しかった。


悔しかった。




僕はベンチにひとり座って、ディスプレイ。フォンに


表示された『愛』に話しかけた。




「ごめんね。『愛』。食べさせてやれなくて」




『気にしないで、巧君。あなたがおいしそうに


食べてるのを見ているだけで、わたし、うれしいから』




『愛』はいつもと変わらない笑顔を見せた。


でも彼女の笑顔は、ちょっぴり悲しそうに僕には見えたんだ。




僕はアイスクリームを食べた。二つとも。


自然に涙が出てきた。切なさが、どうしようもなく


胸を締めつけてくる。




『巧君、せっかくのデートなんだからそんな顔しちゃ、ダメでしょ』




『愛』はプイッとむくれた。でもその瞳には同じ悲しみがあるように


見えたのは、僕の気のせいだろうか?




『巧君、せっかく来たんだから、散歩しようよ』




僕はうなづくと、アイスクリームのコーンをふたつ、


慌てて噛みくだいて飲み込んだ。




『あはは、巧君。右の唇の端にアイスクリームが付いてるよ』




僕はその場所を、手で拭うと『愛』に微笑みかけながら、


照れくさくて頭を掻いた。




『巧君、公園を散歩しない?』




僕は同意して、ディスプレイの向きを外側にして、


歩道を歩いた。




公園の景色を見て、『愛』は歓声を上げた。




『わぁ、たくさんな人がいて、楽しいね』




『愛』は、さっきのアイスクリームの件など


なかったように、本当に喜んでいた。




周りではサイクリングを楽しんでいる、


アルミニウムとチタニウムの合金でできた


セーフティヘルメットをかぶって、サイクルウェアを


着ている本格派から、エレクトリックアシスト自転車に


乗っているのんびり派まで、いろんな人がいた。


年齢も小学生から年配の人とか様々だ。




もちろん、歩道にもたくさんの人がいる。


ジョギング用スーツを身に着けて、息を弾ませながら


ランニングしている人や、競歩みたいなことをしてる人、


のんびり散歩してる人とか。




「こんなにいろんな人がいるのに、僕には親しい


友達はいないんだよね」




冗談めかして愚痴を言ったつもりだったけど


僕はすぐにまた後悔した。


口を開けば、ついネガティヴなことばかり言ってる。


でも、『愛』は少しも気分を害した様子もなく、


明るい声で応えた。




『それは巧君と価値観やフィーリングが合う


人とまだめぐり会ってないからよ。


きっと、そういう人が現れるわ。』




本当に、そんな人が現れる人に、出会うことって


あるのかな・・・。




僕は頭の片隅にこびりついたような疑問を感じながら、


小さく口を歪めた。




ディスプレイは前を向いているお陰で、


『愛』にその顔を見られなくて良かったと、


思ってたけど、




『巧君、大丈夫よ』




僕は少し驚いた。


『愛』にはお見通しだったようだ。


相手の気配を察するようなプログラムなんて


組み込んでいないはずなのに・・・。


これも学習能力の結果なのかもしれないと、


僕は考えるようにした。




とにかく僕は日が暮れるまで、『愛』との


デートを楽しんだ―――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る