36.僕と彼らのホームページ
円藤沙也加が向かった場所、その住所と施設名が記された文面と地図アプリのリンクが張られている。
試しに踏んでみると、どうやら静岡県にあるなんらかの企業のなんらかの施設であるようだった。それなりに広い敷地を持っているようだ。
『サヤちゃんの向かった場所はそこです』
『ちよろずのつどひっていうセミナー?に参加費を払ってました。それでその集会場みたいなところに行ったみたいです』
心臓が高鳴る。
思った以上にカルトに足を突っ込みかけている。
地方、広い施設、セミナー……要素を列挙しただけで、嫌な予感が募った。
僕の手に負えない状況であることが明らかであるように思えた。
ためしにちよろずのつどひ、というワードと沙巫から送られてきた住所を一緒に検索してみる。すると、ひとつのホームページにたどり着いた。
宇宙空間を思わせる漆黒。そこに虹色の粒子が現れ、八の字に画面全体を循環していく。
全体的に、あのポスターと似た
旧館に張り出されていた極彩色のポスター。見ようによっては神秘的と言えなくもない。
白い文字が現れては消えていく。
『世界の正体を顕現させる』
『本当の自分はそこにはない』
『世界に覆われたヴェールを剥がす』
形式はブログで、記事が下に下にと続いていく。
Twitterもやっているようで、右のブログパーツに張り付けられていた。
試しに記事を一つ、読んでみることにした。
大久冥×読者の質問
先日、神代文字がなぜこれほど多く存在するのか、という質問をいただきました。
これについて、とても大切かつ、核心に迫る疑問であると思いますので、今回、記事とさせていただきます。
世間で多く知られている神代文字と言いますと、例えば竹内文書、秀真伝のホツマ文字、上記、カタカムナ文字です。これらについて、一定の真実や真理を伝えるものも確かにあります。
(これまで個別の検証をしてきましたのでバックナンバーを閲覧してみてください(笑))
これらは伝承を受け継いできた各家において、真実の神代文字をベースに改変してきたものでした。漢字伝来以降の、漢字と仮名文字との関係に近いものがあるといえますね。
さて、久元文書に関して言えばこれらの文字郡と同じく、源流文字から改変された文字の内のひとつである、と結論付けています。
神代文字とは、すなわち神と人とをつなぐ神薙のことばです。巫女以外の人間が簡単に使ってはいけませんし、これで記録を残すということも恐れ多い。
久元文書に記録されるところによると、源流文字によって預言された神の言葉は、人々に伝えられたのち、浄炎にくべて神へと返していたようです。
そのため、本来の源流文字で書かれた文書は現存しないのです。そして久元文字はその中で、人間が使ってもよいように源流文字を改変したものでした。
これについては中国の繁体字と日本でつかわれている略字の関係を思いうかべていただくのが速いかもしれません。もっとも漢字の場合は使いやすい、という合理主義によって生まれたものなので厳密に言えば違う考え方なのですが……
こうして多くの神代文字が伝わっている、ということは古代より、日本の伝統を守ろうとしてきた先人たちの努力の賜物と言えるかもしれません。
文書はこの後、セミナーについての宣伝と久元文字というものが刻まれたバレル状の置物の通信販売についての言及で結ばれている。
一本49980円。中々の高額商品だった。
タグは『神代文字検証』となっている。
同じタグの別の記事もあったので、それも読んでみることにした。
カタカムナ文字について
さて、前回の結びでカタカムナ文字は源流文字からの派生神代文字であると結論付けましたが、その文字の図形自体には神代日本の哲学観を再現した素晴らしいものであると思います。
月の満ち欠け、原子の動き、世界の成り立ち……こうした思想が図形としてきちんと現れているのです。
見るだけでDNAが修復されるという報告もありますが、神代日本においてもカタカムナに類似した医療文字があった可能性もあります。
これについて、久元文書に言及があれば随時公開していきたいと考えています。原典はとにかく膨大なものですから……土蔵の整理と調査の中で、カタカムナ文字の源流、あるいは相似図形が発見される可能性もあります。
ひとまず記事を二本読んでみた。
信じるか、信じないか。
オカルトについて思考するたびに何度も現れるこの問いに照らし合わせてみれば、完全に信じる側のスタンスの文章であることは間違いなかった。
信じている、というよりも、信じることが前提となって次の言葉が立ち現れていく、と言うのが正確かもしれない。
……正直、どうすればいいか分からない。何をするべきなのかもわからない。
まず、僕がしたいことは明らかだった。
円藤沙也加をこちら側に引き戻す。
だが、どうすればそうできるのかが分からない。
最初、円藤沙也加は彼らに言葉にもって対抗しようとした。
矛盾点を突き付けて、議論において勝利すること。
それを目的として彼らに立ち向かった。しかしそれは失敗している。
どういう議論をしたのか、それは覚えていない。
だが議論自体はあった。その結果、沙也加は静岡県の施設で開催されるセミナーに参加している。
では、僕は。
「分からないことが、好きなんじゃないのか、僕は」
自分を鼓舞する言葉が口を出た。
分からないもの。恐ろしいもの。勝ち目なんか無いもの。……何者かによって隠されたもの。そういうものを追い求めることが好きだった。だったら、行くしかないではないか。
僕はスマートフォンを取り出すと、沙巫から送られてきた住所への経路検索を始める。
行こうと思えばすぐにでも行ける。時間はある。
少しくらい講義をサボっても問題は無い。
そこに少しの着替えとクレジットカード、スマートフォンがあれば、僕はいつでもそこに行ける。
これまでの思考は行かない理由を探しているだけだ。
……そう、自分に言い聞かせながら、僕は行動した。
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