再出発は剣士と共に
人知れぬ激闘が
「んんー……はぁ。うーん、ちょっと早く起きちゃったなぁ」
普段は起こされても起きないタイプのエルマだが、昨晩は連続して錬金術を行使した影響で疲労が蓄積し、夕食を取る間もなく眠りに落ちていた。それ故に、まだ薄暗さも残るこの時間帯に目が覚めてしまった。
だが、朝の
「とっても気持ちいいなぁ。やっぱり、早起きは三分お得だね。……あれ、三本の矢だっけ? まぁいいや、せっかくだし顔でも洗おっと」
緩んだ気分を引き締めるため、ゆっくりと湖に近づき、冷たい水を両手で
「おや、意外に早起きなんだね」
「ひゃあっ!?」
誰もいないと
「ああ、ごめんね。ちょっと驚かせちゃったかな」
「フリッツさん! もー、びっくりさせないでくださいよ。心臓が止まっちゃったじゃないですか」
「いや、止まってないと思うよ。それはともかく、昨日はお手柄だったね。キミは満足してないようだけど、あの大きさの『
「はい。お水用と、食材用の二種類です。本当なら、あの大きな棚丸ごと『
「いや、いいんだよ。その代わりに貴重なものが見られたから、僕は大満足さ」
嘘偽りのない笑顔にエルマは安堵しつつも、フリードリヒの装いの変化に気付き、数歩ほど歩み寄る。
「あれ? フリッツさん、昨日そんな服でしたっけ?」
「ん? ああ、昨日エルマさんが寝てしまった後、着替えただけだよ。たくさんの魔物を狩った後だから、臭いが気になるだろう? 魔物は臭いに敏感でね。僕みたいな職の人間は特に、臭いには気を付けているのさ」
「そうなんですか。でも、そんなに臭わなかったけどなぁ」
「人間では気付けない臭いも嗅ぎ分けてしまうからね。さてと」
勘のいいエルマに感心しつつ、フリードリヒは空を見上げて彼女に訊ねる。
「キミは、州都の技術院に行って錬金術について学ぶつもりだ、って聞いたんだが。それは本当かな?」
「はい。あっ、でもそれだけじゃなくって、わたしの家、エドワードシエラ一族に関する話も聞こうと思ってるんです」
「エドワードシエラ一族?」
「お父さんが言うには、わたしの家系って魔法を使う能力は高いけど、暴走させやすいみたいなんです。技術院ならその原因を知ることが出来るかも、ってゾフィー先生が」
「ほう、なるほどね……」
旅の目的を聞き、フリードリヒは納得したように小さく頷くと、そのまま天幕へと引き返していく。彼の突拍子の無い行動に、目を丸くしたエルマは慌てて訊ねる。
「フリッツさん? あの、どうしたんですか?」
「いや、陽が高くなる前に水を回収しておこうと思ってね。州都へ行くには、この森をあと二、三日くらいは歩かないといけない。それなら、早く準備を終えて出発した方が良いだろう?」
「あ、そっか。せっかく創った『
「何を言ってるんだ? 僕もキミたちの旅に付いて行こうと思ってるんだよ。ああ、もちろん森の出口までだけどね」
「え、ええっ!? フリッツさんって、この森に用があったんじゃ?」
フリードリヒがエルマたちに同行すれば、必然的に彼も森から出てしまう。任務外とはいえ、彼自身の目的とは異なる行動になってしまうため、エルマは彼の提案に反対せざるを得なかった。
だが彼女の心配をよそに、フリードリヒは笑顔のままエルマに聞き返す。
「せっかくここで出会ったんだから、森の出口くらいまでは護衛してあげようかな、と思っただけさ。この森は、夜でなくとも危険な魔物がたくさん出現する。護衛なしだと、ゆっくり寝ることも食事することも難しいからね。でも、キミたち三人とドラクンクルスくんだけで対処できるっていうなら、別に良いんだけど」
「あ、いえいえ! だったら、しばらくよろしくお願いします! いえ、むしろ付いてきてください!」
「ははは、正直でよろしい。ただ、護衛と引き換えになんだけど、ここに僕がいたっていうことを、誰かに喋らないで欲しいんだ。偉い人たちには特にね」
「偉い人? えっと、村長さんとかですか?」
「ま、まあ、そんな感じかな。とにかく、僕がいたことは他言無用でお願いするよ。いいかな?」
「もっちろんです! それじゃあ、水を汲んじゃいましょうか。そろそろシャルたちも起きちゃうかもですし」
そう言って、エルマはフリードリヒの後を追うようにして、天幕へと引き返していった。森を出るまでの短い間であるが、新たな仲間を加えた旅を再開するために。
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