第14話 団らんする科学者たち
「あ、ちょっと待って」
委員長の音頭を遮り、アキバがそう言ってみんなの手を止める。
「ねえみんな、どんなお弁当を持ってきたのか、順番に発表しない?」
「いいけど、俺はコンビニ弁当だぞ? 面白くもなんともないと思うけど」
「じゃあ、トンマのその面白くもなんともないお弁当が基準で」
「お前っ、ファ〇マに謝れ! 面白くもなんともないを復唱するな!」
「じゃあ、まずは委員長ねっ」
「無視!? お前もそういう感じの扱いでくるの!?」
なんだか俺、空気だった。ここにいる意味、ないような気が……。
でも、だからって男の集まりに行く気もないけどな――自分から処刑されに行くなんてバカのすることだ。
「私ですか? いいですよ、はい」
委員長が出した弁当は、綺麗にまとまっていて、見てて気持ちが良い。
野菜も肉も魚も、バランス良く入っていて、栄養のことがよく考えられている。
委員長のお弁当、って感じの、模範的な弁当だ。
「すっごーい、これ、委員長が作ったの!?」
「はい、朝起きて作りましたよ」
さすが、委員長と呼ばれるだけある。
なんだか、完璧人間みたいだな。
「あ、それで、その……トンマ君、少し食べますか?」
「え? 俺? ……ありがたいけど……、なんで?」
「毒が入っていたら危ないので」
「お前が作ったんだろうが! 毒味役か、俺は!!」
殺す気か!
「嘘ですよ、いいから、良ければ食べてください、黙って、ほら口開けて」
途中から強制になってる気が……、ああ、はいはい。
委員長から貰った卵焼きを、あーんの形で、口に運ぶ。
んむんむ。
んまんま。
………………うん、うーん、うーーーーーーん。
「どうですか?」
「委員長……、まずくはないよ? でもね、なんて言えばいいのか……言語化できないくらいの……、感覚的なことなのかな……、うん、微妙な感じ?」
「えっと、それ、は……」
「食べられないほどじゃないけど、これは……うーん、突っ込みづらいなあ。その、リアクションが取りにくい。うげえ、とも言えないし、うまっ、とも言えないし……リアクション殺し?」
「う、う――」
「う?」
「うわぁああああああああああああああんっっ」
「ええ!? 委員長、号泣!?」
「と、トンマ君に、犯されたぁっ!!」
「待てこらぁ!! それは絶対に外で叫ぶんじゃねえぞおッッ!?」
駆け足で去っていった委員長を追いかけようとしたら、ハチミツに腕を掴まれた。
「――おい! あれは放置したら絶対にマズイ! 早く追いかけないとっ!」
「あれ? やっぱり不味いの?」
「そっちじゃない! 美味いとは言えないけど……、でも不味いとも言えないから……だから微妙だって言うしかなくて!!」
「うわぁあああああああああああんっっ、とどめだぁああああああ!!」
「委員長ぉおおおおおおおおおおおおお!?」
聞いてたの!? 戻ってきてたのかよ!!
扉のところで聞き耳を立てるならさっさと戻ってこい!
すると、今度は男子だけではない……、女子から突き刺さるような視線が……、
「(サイテー)」(女子一同)
「うぐ!?」
普通に傷つく初歩中の初歩の嫌悪感を抱かれた気がするんだが!
クラスでの俺の好感度、ガタ落ちだよちくしょう!!
「じゃ、今度はあたしの番ね」
ハチミツのターン、らしい。
しかし、俺は彼女のターンを、スキップさせる。
「なあ、アキバ、お前の弁当を――」
「あ・た・し・の――――っっ!!」
回り込まれた、逃げられない!
「仕方ないな……、で?」
「じゃーんっ」
取り出したのは、大きな、黒光りする箱だ。
「でかっ。お前、こんなに食うの?」
「違うわよ! 今日は、その――特別だから!」
「ああ、そうなのか? 記念日……誕生日?」
「違うから! いいから、一口、食べなさいって」
まあ、見た目は整ってるし、綺麗だから食べるけど。
でも、委員長の件があるから怖い……。
見た目が良いほど、今度は不味い予感がぷんぷんするし……。
弁当の中の、ハンバーグを一切れ、食べる。
――うん、まあ、正直に言ってもいいか、これは簡単だ。
「おう、不味いな」
「なんでよ!!」
「どふえ!?」
ハチミツに腹を殴られ、そのまま後ろに倒れる。
「な、んで――殴るんだよっ、お前は!」
「あっ、ついつい、ね」
「ふざけんなっ、そのてへぺろが一番腹立つ!!」
「それよりも!」
「それよりも!?」
「なんで不味いのよ、理由を一から全部、教えなさい!」
「しょっぱい、火が通ってない、硬い、匂いが……、もっとあるけど、聞くか?」
「うわぁああああああああああああんっ」
「ハチミツさぁん!?」
再放送を見ているようだ。
委員長と同じように、ハチミツが去って、廊下を駆けていく。
俺は当然、追わない。
行っても、慰められる技量がないからなあ……。
「(あいつ、死ねばいいのに)」(女子一同)
女子たちからの攻撃が凄いね、だけど気にしない、気にしない……っ。
「あ、ハッピーはどんな弁当なんだ?」
「ん?」
な!?
ん、だと……!?
俺の目がおかしいのか? ハッピーの手に、骨付き肉が握られているような……。
お前だけなんで原始時代?
「こんがり肉だけど」
「どこで狩ってきやがった!」
「え、渓流で」
「渓流で!? 渓流って――渓流で!?」
「ああ、うちから近いからな。徒歩三分くらい」
「コンビニ感覚……」
「あ、でも三分と言ってもアタシなら、な。普通の人なら一時間くらい」
「お前が何者だよ」
相変わらずめちゃくちゃだ、こいつは人間じゃねえぞ……。
「トンマぁ」
「ん、アキバか。どうした?」
「いや、みんな凄くて、ハードルが上がったから出しにくいなあ、って」
言い出したのはお前のはずだが、とは、さすがに言えないが。
俺はアキバに甘いのか? まったく……、やれやれって感じだぜ。
「大丈夫だろ、いるの俺だけだし。今ならなにがきても食えるぞ」
前の二人が個性的だったからな、バラエティ的なハードルは上がっているが、俺が求めているのは普通に美味い弁当だ、面白くもなんともないのが、俺の理想でもある。
つまり、ファ〇マが優勝ってことか?
「えっと……、じゃ、じゃあ、食べてっ」
「よし、食う、ぞ……?」
ボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコ――っっ。
え……、なにこの音!? 弁当の中から聞こえる音じゃない!
マグマ!? マグマを汲んで入れてるの!? 沸騰し過ぎじゃないか!?
こわっ、怖い怖い怖い怖い!! 高いハードルを随分余裕を持って飛び越えてるじゃねえか!
「……あの、トンマ? 食べれる……?」
すいません、マジでこれだけは勘弁してくれませんか、大口を叩いた俺でも無理ですごめんなさい――さすがにこれは断って……、
「あはは、やっぱり、ダメ……かあ……」
ぐす、と聞こえた気がした。
アキバの表情は、俺のなにかを締め付けて、苦しめて――、
俺は彼女のそんな顔を、見たくなかった。
「……ったく」
俺はアキバの手から、その危険物を奪い取る。
「え?」
お前の意見なんか知るかよ。俺は食うぞ、食ってやるからな!?
男子も女子も、信じられないようなものを見る目で、俺に注目している。
はっ、見てろよ、お前ら。俺がいつも同じだと思うなよ!? こんなもんよお、いくらでも食えるんだ……っ、お前らとは、体の出来が違うんだよぉッッ!!
俺は!
手に持つ危険物の中身を、口の中へ流し込んだ。
数秒の沈黙が生まれ――、
俺はその時間で、よく味わってやった。
そして。
「トンマ、大丈夫……?」
「ああ、大丈夫だっ。美味しかったぞ、アキバ。
じゃあ、俺は手を洗ってくるから、ちょっとトイレに――」
言い残し、俺は教室を出る――、
後ろから扉を開く音が微かに聞こえ、追ってきたのは、ヒガだ。
「おい! 大丈夫か、マコト! あれはさすがに……明らかにヤバイだろ!」
「おぅ……、親友か……悪いけど、あとは、頼むな……、ガクッ」
「マコトぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
―――
――
―
マコトがダウンしてしまったので、ここからはおれ、ヒガがお送りするぜ。
意識不明の重体? になってしまったマコトを保健室へ連れていき、
おれは今、五時間目の授業をサボっているところだ。
マコトを利用してのサボりだ、おれって悪だぜ。
まあ、すぐに戻れと保健室の先生に言われたから戻るがな。
中途半端な悪だ……まあ、時間は潰せたし、いいか。
そろそろ、五時間終了のチャイムが鳴――、
「お、鳴ったな」
ナイスタイミングだ。五時間目の授業を丸々サボれたぜ。……大丈夫かな?
不安だが、まあ、気にしないでおこう――きっと大丈夫だ。
そんなことをしている内に、教室についてしまった。
騒がしいタイミングを狙って、おれは扉を開ける。
休み時間だったので、あまり目立たなかった。まあ、それを狙ったからな。
おっと、おれがやるべき仕事は一つ……、いたいた。
「おーい、アキバ」
「あ。えっと、あの……」
言い淀んでいる……え、名前を覚えられていない!? ショックだ!
「な、なにかな、デガくん」
「誰!? 一か八かの賭けに出るなよっ、おれはヒガだ!」
覚えて!
「ごめんね、あんまり覚えられなくて……」
「いや、まあしょうがねえけどさ……、で、あいつのことなんだけど」
「うんうんっ」
前のめり。すげえ興味津々だな……、そんなに心配かね、あいつのことが。
「心配すんな、別にどうってことねえよ。昨日、夜更かししたみたいでさ、寝てねーんだとよ。
だから今、ぐっすりと寝て回復してるから、安心しろ。放課後には起きてくるだろ」
本当は三途の川でも渡ってるのかもしれねえけどな。
それはそれで、あいつは楽しんでいそうだ。
「そう、なんだね……、良かった、ふふ……っ」
…………。
これで、いいんだろ、マコト……。
お前はさ、この笑顔を、守りたかったんだよな……?
ちっ、お前の気持ちが理解できるのが、悔しい……。
おれだったらきっと、あれを食うことはできなかったから――。
これっきりだ。
これ以上はやらねえからな! あとはお前が、自分でどうにかしやがれ!!
「あの!」
「ん?」
「ありがとう、ポガくん!!」
嬉しいなあ……、名前さえ合っていれば、もっと嬉しいのに。
「……ああ、どういたしまして」
おれはそう言って、自分の席へ戻る。
マコト、ここからだ、ここから勝負だ。
お前なんかによお、アキバは渡さねえからなっ!
おれが彼女を手に入れてやるからなあ! はっはっはっはッ! ……はぁ。
なんで、お前ばかりがモテるんだろうなあ……、全然、理解できねえ。
お前は人の好意に気づかねえし、デリカシーがないし、おれの方が全然、良いのによお。
……でも、アキバを傷つけないために自分を犠牲にしたのは、まあ、見直した、か。
――見てろよ、絶対、お前に勝ってやるからなっ、絶対だからなッ!
でも、その前にあいつ、三途の川から戻ってこれるのかよ?
【保健室】
「――起きてください! 起きてくださいっ! 起きてくださいですっっ!」
「どふえ! どふえっ! どふえッ!?」
連続でビンタをされている!? どういう拷問だ、これ!
「起きてください、先輩!」
「も、モナン!?」
「そうですっ、モナンですよ! 出番がまったくなかった後輩のモナンです!」
「気にしてたの!? というか、どうしてここに……、ああ、俺を起こしてくれたのか」
悪いな、世話をかけたみたいで。
「いえ、ただのストレス発散です」
「酷い! だからビンタばかりを……、見ろよこれ、顔が腫れちまってるじゃねえか!」
「くすくす、先輩、タコみたい」
「しばくぞ!」
「でもでも、モナンのストレスが、すっごい溜まっていたんですよ?」
「知るか! 俺じゃなくて、別のどこかで発散してこいよ!」
「それに、新キャラも増えましたし。……先輩、ちゃんと扱えますぅ?」
「言うな、やめろ、お前の悪い癖だぞ!!」
「結局、出てきたの今回だけで、今後は出ないパターンなんですか!?」
「もうやめろ、拳をマイクに見立てて俺に向けるなあああああああ!!」
こうして、俺のいつも通りと言える、ドタバタな一日が終わった。
「今度、モナンが遊びに行きますね」
「俺のクラスにか? ……やめろ、これ以上あの教室をかき乱すんじゃない!」
「待ちきれませんっ、行ってきまーすっ!」
「自由奔放か!? ちょ、マジでっ、マジやめろぉおおおおおおおお!!」
モナンだけはもう、上手く扱うのを諦めたいよ……。
―― ラボ・イン・パニック ―― 完
NEXT→
―― トンマ・ビフォー・ステップ ――
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