第12話 学校へ行く科学者たち 後編
はいはい集合っ、みんな大好き、私こと委員長の前回のあらすじですよっ!
久しぶりに学校へ来てくれたアキバさん……、
彼女とトンマ君のラブラブぶりを見たクラスの男子たちは、怒り爆発のぷんぷん状態に!
果たして、トンマ君は男子たちから逃げられるのでしょうか!?
トンマ君の孤独の戦いが始まるみたいですっ、がんばれ!
「やめろそのノリ腹が立つ!」(トンマ)
【一時間目 現代文】
…………、ふう。
上にある、前回のあらすじには触れてくれるな。
たまに出る委員長の悪ノリだからな……誰の影響だ、まったく。
まあさておき、一時間目の授業が始まった。
教科は現代文。
教科書を順番に朗読したりする、眠気を誘う退屈な授業だ。
なんだけどな……、アキバはどうしてか、興味津々なご様子だった。
……いつもなら寝ている俺だが、今日は寝ないで隣に意識が引っ張られる。
アキバを見ている……わけじゃないからな?
殺気なんだ、寝たら最後、もう二度と起きられないんじゃないかって……っ。
「よし、じゃあ、このページを読んでくれるやつはいるかー?」
と、先生がいつものように、教科書を読んでくれる人を募集した。
やはり手を挙げる生徒はおらず……、いるわけないだろそんなやつ。
評価が上がるわけでもないしな。
「そうか……、あー、じゃあ、秋葉原、お前に頼めるか?」
アキバは、
「は、はい!」と動揺しながら、慌てて立ち上がった。
俺は不安だった。
だって。
だってさあ……。
「――H、水素! He、ヘリウム! Li、リチウム!……――」
だってそれ、化学の教科書だし!
ボケか!? ボケなのか!? それとも頭がボケたのか!?
「や、やめろストップだ……秋葉原、もう、大丈夫だ、ありがとう」
先生が諦めた……。
「え、もう……、はい!」
なんでお前は満足そうな顔をして座る!
実際、なにもできてないぞ!?
化学の教科書を読むという無礼をしているからね!?
あと、レベルを落として俺たちに合わせた学力で化学の教科書を持ってきているのだとしたら、元素記号を読むのはなめているよな?
お前には届かないとは言え、俺たちだってそこそこ……、まあ、明言はしないが。
生徒にも色々といるし。
「あー、じゃあ次、葉原、頼む」
今度はハッピーが指名された。
まあ、アキバよりは常識的な答えが……、いや?
「ん、……ああ、悪い、ひらがな読めん」
――無理だな。
学力どうこうよりも性格が悪い。頭以上に……、それにしてもいくら面倒くさいからって、ひらがなが読めないから、という理由はない。もっとそれっぽく仕上げられないのか。
見てみろ、先生も頭を抱えてるじゃねえか!
あと、あんたもどうしてクラスの問題児に振るんだよ!
「もうっ、二人とも、授業はちゃんと受けるものですよ!」
委員長の注意。
ぐうの音も出ない正論だ……珍しいことじゃない。
しかし、ここまではいいが、いつも通りならここで――、
「きちんとしてください!
これ以上、無能な先生を困らせないでください!
無能ですから、対処もできないんですから!」
「お前が一番、殺傷能力が高いんだよなあ……」
こうして、現代文の授業が終わった。
事件こそ起きなかったが、先生の心に、深い傷ができたのだった……。
【二時間目 数学】
数学だ。
俺も得意な方ではあるので、楽な授業ではある。
難しい問題でも、少し考えればだいたい解けるからな。
答えが一つしかないのだから、やり方が間違っていなければ答えは出る。
出なければ過程が違うだけだ……それさえ分かれば修正はできるのだから。
先生が黒板で説明してくれているが、俺はもうそこを理解している。つまり聞かなくともこれから配られるプリントに関しては、すぐに解くことができるのだ。
そんなわけで、少しぼーっとしていると、
ガタガタ、と音がした。
「ん?」
音がした隣を見ると、アキバがふるふると震えていた。
寒い……わけではないだろ?
気温は暑いくらいだし。
「アキバ、なにしてんだ?」
「あーっ、もうっ、イライラする……、早く、そこ、ちがっ――もうっっ」
「お、おい」
「もういいがまんできないっ!!」
アキバが勢い良く立ち上がり、黒板の前、先生へ詰め寄った。
「あなた本当に先生ですか!? 教え方が雑ですし、もっと簡単なやり方があります!
ここをこっちに、これを後回しにして、こうしてこうこう――どうですかっ、これで!」
アキバが説教をし始めたが……、大丈夫か?
アキバじゃなくて、先生の方がな。
「こっちの答えは違いますし……、こんなことも分からないなんて……。
パパは人を見る目がないのかもしれませんねっ」
もう、勘弁してあげてくれ……先生が泣きそうだ。
見るのもつらい……、
「気になったことはまだありますから。あなたの授業は――」
『もうやめてあげてぇええええええええええええっ!!』(クラス一同)
こうして、また一人、先生を辞職寸前まで追い込んでしまった。
数学――終了。
このあと、止めたにもかかわらず説教は続いたよ……チャイムが鳴るまでな。
【三時間目 体育】
今日は男子も女子も合同の体育。
内容は意外にも、野球だ。
もちろん、男子と女子は別々だ……当たり前か。
女子の方に行きてぇよ……。
いや、男子の下心で行きたいと言っているわけじゃなくてな。
なぜなら――、
「死ねぇええええええマコトぉおおおおおおおおおおおッッ!」
こういうことだ。
アキバと喋っていただけなのに、男子から敵と認識されてしまった。
だから、俺がバッターとして立ったら、空気がぴりっと変わる。
ここは戦場か?
味方であるはずのチームメイトも敵だ……、
すると、投げられた白球が、俺の眉間をシュッッ、とかすり、
煙を上げながら、キャッチャーミットに収まった。
「ファール」
「なんで!? 確実にボールだろ今のは!」
「ちっ」
気持ち的にはデッドボールを訴えたいところだが、かすった程度だしな。
あと舌打ちは良くないぞ……、それにヒガ、問題はお前だ。
「今、俺の眉間にボールがかすったんだよ、危ねえだろ!
俺の頭のところにキャッチャーミットがあるのおかしくない!? お前の指示だよなあ!?
確実に俺の頭を狙ってんじゃねえかッ!!」
「避けるとはな……中々、やるじゃねえか」
「話、聞いてる!?」
「おれの最強の変化球――【消えない魔球】を見せてやる!」
「消え……、あれ!? それはただのストライクなんじゃ……」
「おりゃあッッ――、っし、やっぱり、消えない!!」
「お前はバカなのか?」
「言いつつ、振らないお前はバカなのか?」
「あ。し、しまった、俺に突っ込ませて見逃させる戦法か……っ。
しかしこれはあえて、だ。あえて振らなかったんだよ、親友」
「忘れてただけじゃねえか。突っ込みに集中し過ぎだ、ボケ」
「言いつつ投げるんじゃねえぇええええええええええッ!!」
咄嗟に反応してバットを振る――が、俺のバットは白球を捉えられなかった。
「――スットラーイックンナアンッ!!」
「なんて言った!?」
「おいマコト、チェンジだぞ」
「今のストライクの言い方なんだ!? 腹立つ! 最後の方、言いにくいだろ!」
「? どうでもいいだろそんなこと」
気にしないのか……? 騒いでいるのは俺だけみたいだし……いいけどさ。
掘ったら面白くなりそうな気もしたが……、仕方ない、見逃すか。
次は守備だ。
俺はグローブを手にはめ、一塁を守る。
相手チームのバッターは、ピッチャーでもあるヒガ。
運動神経が良いからな、あいつは。
インテリの俺とは全然違う。それでも、合う部分が多いのだ。
ピッチャーがボールを投げ、
ヒガが振ったバットが白球を捉え、
カァン、と気持ちの良い音を響かせ、その白球が俺の顔面に――、
「おうわぁ!?」
高速で屈む。
あと一瞬でも屈むのが遅ければ……、顔面に当たり、グロテスクな絵になっていた。
危なかった……ッ、今のマジで、死ぬところだったぞ……っ。
「惜しい」
「確かに狙ってるなら凄いが、ナイスコントロールだが!
でも今はいらねえだろ、こんなところで発揮するべきコントロールじゃねえよ!」
「ここで使わなかったら、どこで使うって言うんだ?」
「たくさんあるわ! 絶対に、使うべきはここじゃねえって!」
「ったく、分かったよ」
うるさいなあ、と呟きながら、ヒガがバットを構え、振る。
カァン、と芯で打ち返された白球が、再び俺の顔面へ――、
「分かったねえじゃどふえッッ!?」
虚を突かれたわけではないが、今度は避けられなかった。
白球が、俺の顔面に思い切りめり込んでいる……。
「く、はは、あっはははッ! ざまあみろだぜマコトくんよぉ!
まあ、こっからのお楽しみは、お前はそこで寝ていろよなあ……ばははっ!」
あの、野郎……、ッ、殺す、殺してやるぅ!
しかし気持ちに反して、体がまったく動かない……あれ?
これ、俺、死ぬのかなあ……。
「まあ、そんなわけないか」
「――ね、ねえ! だ、だだ、大丈夫なの!?」
「え?」
目の前に、すっごく可愛い女の子がいた。
天国か?
天国しかないと思うけど……。
だって俺のことを心配してくれるやつなんて、あいつくらいしか――。
「あたしよっ、蜂堂よっ、蜂堂光子、覚えてる!?」
「ハチミツかよ!」
ハチミツ――かよぉ……。
もっと可愛い子だって、思っていたんだけど……はぁ。
なんかすげえ、期待はずれだ。
「なんかすげえ、期待はずれだ」
「心の中の声が漏れてるけど!?」
「え……、あー、そう、そう、か。……お恥ずかしい」
顔が真っ赤なはず……、あー、穴があったら入りたいな。
「あれを聞かれるなんて……」
「それで処理できるレベルのことじゃないわよ!
あたし、思い切り罵倒されたんですけど――ですけど!!」
「違う違う! あれは……その……、そう! 本音だっ!」
「誤魔化そうとする勢い!? でもフォローする気、ゼロですか!?」
「いや違う! あれは……、はあ、もういい、よ……」
「諦めないで! もっとあたしのために粘ってよお!」
ハチミツがそう叫んで、俺の胸倉を掴む。ぐわぐわんと前後に揺らしてくる。
「あ、あた、頭っ、くらくらするから、ちょっ、やめろぉ!」
「あ、ごめん」
「勘弁しろよ……、俺、怪我人だぞ?」
「そ、そうよね、そうだった! 大丈夫なの?」
「まあ、なんとか――、あ、ぁあっ!?」
「うえ!? い、いきなりなによ!? びっくりするでしょ!」
「いや、別に」
いま気づいたが、男子からの殺意が強くなっている……なんでだよ、ハチミツと喋っていただけなんだけど……、アキバじゃなくてもダメなのか――じゃあハッピーも?
勝手なイメージだが、それはセーフな気がするな、うん。
いま、男子ではない殺意が一つ増えた気がしたが、気にしないでおこう。
『なんでお前ばかりが結局お前かこのリア充めがッッ』(男子一同)
このまま過ごしていると、放課後まで俺は生きていられるのか?
男子の攻めがこれで終わるわけがないし、数倍になるだろうしな。
「保健室、行く? 連れていってあげようか?」
「いや、大丈夫だ。まだやれる」
「本当に?」
「ほんとほんと」
「じゃあ、あたしの
「なんでだよ、意味が分からねえよ……」
意味不明で、頭がガンガンするよ……。
「いいでしょ、減るものじゃないし」
「減らないが、失うものはたくさんあるな。
というか、外靴を舐めるわけねえだろ――」
「あ、そういうこと。じゃあ待ってて、上履きを履いてくるから」
「違う! 舐めやすい上履きを望んだわけじゃないっっ!」
「むう。じゃあ、なんだったらいいわけ?」
「まず舐めねえからな!? 誰がオーケーしたんだ、してねえよ!」
「細かいことをぐちぐちと……気にしないでよ、男らしくないわね」
「細かくねえからな!? 話の大きな大きな中心柱じゃねえか!」
「冗談はさておきね」
「……、で、なに。いきなりどうした。いつもと違う様子だけど……」
「それはね、そのっ」
「?」
「あたしね、あたしは、あんたのこと――」
「おーい、危ない危ない」
遠くから聞こえるハッピーの声と共に、グニャア、と形が歪んでいる白球が、低空飛行で俺たちの目の前を横切っていく。
もの凄い速さで。
そのまま、校舎に衝突した。
まるで、爆発音――、そして。
一階の一室が、消滅した。
『…………………………………………』
「悪い、二人とも、怪我ないか?」
『――殺す気かぁッッ!?!?』
こうして、俺にとっては命懸けの野球が終わった。
ちなみに、姿がなかったアキバは、途中で熱中症によりダウン。
さすが、インドアであり、インテリ娘だ。
【四時間目 音楽】
「みなさん、今日は自習にしますので、各々に勉強方法をお任せします。
ただし、音楽関係の自習でお願いしますね」
言って、先生が音楽室から退室する。
テキトーだな、あの先生。
まあ、正直な話、音楽は苦手だから助かったか。
「ねえ、自習ってなにをすればいいの?」
熱中症から復活したアキバが、俺に寄ってきてそう質問した。
「そのままだ。自分でできる学習をしなさい、ってことだろ」
「あ、そのままでいいんだね」
そのまま以外に、どういう解釈の仕方がある?
「じゃあ、なにしよっか」
「でも、無理してなにかをやる必要はさ」
「では、歌を歌うのはどうでしょう!?」
と、委員長が提案してきた。
「歌、か。……俺は苦手だから嫌だぞ」
「あれ、トンマはそうなの?」
「トンマ君は音痴なんですか?」
音痴、とまで言われると否定したくなるが、したらしたで歌わされるだろうから、誤解させたままの方がいいか……、俺は頷く。
「無理強いはできませんね……音痴には」
「そうね、音痴だものね……」
「いじってるなあ……」
続くようなら一度、カラオケでも連行してやろうか。
「そこまで言うならアキバ、お前の歌を聞かせてみろ」
「いいけど?」
売り言葉に買い言葉、でないこと祈る。
アキバが歌い出す……、透き通ったような、綺麗な声だ。
「△○□×#%$~~♪」
「せめて人の言葉で歌ってくれよ!」
「トンマ君、女の子はデリバリーなんですよ、もっと言い方を考えて――」
「デリケートだよ、そこを間違えるな!」
「それくらい……気づいてましたよ、ぷんぷん」
「あらすじから思っていたけど委員長のそれなに!? マイブーム!?」
「まあまあ……くすっ」
「噴き出してどうした!? バカにするなら女子だけど殴ってやろうか!?」
「きゃー、トンマ君に犯されますぅ」
「冗談でもそれだけは絶対に言うなよ!? まじ、やめ、お願いします!!」
「土下座に重みが感じなくなってきたわね……やり慣れてるの?」
アキバが俺を見下してくる……、
基本的に、お前かハッピーにしかしていないはずだけど……。
モナンに? するかあいつに。
土下座は便利だ。
しておけば、大体のことが解決する魔法のポーズ。
しない手はない。
「土下座をしておけばなんとかなる、これ常識だ」
「心の声がはっきりと聞こえたわね」
「し、しまったぁああああああ!!」
ちらり、委員長を見る。
彼女は、にこっと笑っていて――。
ふう、大丈夫だ、全然怒ってな――、
「お仕置き、必要ですか?」
笑顔だけど……その笑顔が、一番怖いんですよ……。
こうして、自習時間は俺の拷問時間で終了した。
―――
――
―
残すは午後の授業――、
今の俺のライフは、赤ゲージに突入している。
未だに出番がないモナン。
さて、どうなる、俺!?
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