第11話 学校へ行く科学者たち 中編
「うぃっすー」
挨拶をしながら教室のドアを開けたら、なんだかざわざわしていた。
「……えっと、なにこれ?」
自分の席に向かう途中、
このざわざわの原因が、俺の席の隣にいた。
「あ、トンマ、おっはよー」
「おう、アキバか。……なんでいるんだよ、ここに」
「なんで、って。……うーん、面白そうだったから?」
「嘘つけ。なら、なんで今までこなかったんだ?」
「まあまあ、どーどー」
「いや、別に怒ってないよ?」
朝からアキバに会うなんて珍し……くもないか。
朝から研究所にいくこともあるし。
まあ、大半は、朝が弱いアキバは起きていないことが多いんだが。
「どうして今更」
「えー、来ちゃダメなの?」
ダメではないけどな。
すると、「おっす」と聞き慣れた声が聞こえてきた。
「よお、ハッピー」
「おっす、トンマとアキバ」
「おはよう、ハッピー」
「今日は遅いな? 寝坊か?」
「まあな、少し、魔王と戦ってきてな」
「朝っぱらからド〇クエか?」
モナンみたいなことを言い出したが、普通にゲームの話だろう。
「ん? 現実でだぞ?」
「魔王と!? いや、あんなのがいたら通報されると思うが……」
SNSとネット社会をなめるなよ?
「当然、アタシはそれをぶっ飛ばしてきたのさ。
もちろん、MPなんて使ってないぜ!」
「お前は使う必要ないし、持ってないだろ……」
「アタシが力だけの脳筋だって言いたそうだな?」
違うのか? とは、さすがに俺も自重した。
ハッピーは怒りを飲み込み、
「アイテムも、カロ〇ーメ〇トしか使ってないしな」
「空腹しか解消しねえじゃねえか」
「まだ余ってるから、アキバも食うか? 思ったよりも美味いぞ」
「私、食べてきたからいらない」
「そうか、残念だな……、アキバ? ん?」
「どうしたの? ハッピー」
「え、なんで――ここにアキバがいるぅううっっ!?」
『反応、遅っ!!!!!!』
おお、クラスが一つにまとまった、すげえ団結力だ。
「――びっくりだよ! なんで、アキバがここに!?」
「……こっちはお前の反応の遅さにびっくりだよ」
「ノリツッコミにしても、長いものね」
「長過ぎるしな。もうノリ過ぎて、違和感がなかったぞ」
「だってよお、なんかいつも通り過ぎてさ。
アキバがいても、なんか……あれ? って、思わなかったんだよ」
それはいてもいなくても、どっちにしろいつも通りってことになるが。
「でも、本当になんでだ? 前にあれほど、言ってもこなかったのにさ」
そう、俺たちは一度、本気でアキバを学校へ行かせようと奮闘した。
が、どんなに手を尽くしても、アキバは首を縦に振らなかったのだ。
アキバの過去を知っている俺としては、深く抉られたその傷をまた広げるくらいなら、学校になんて行かなくてもいいと思っていて――、
それ以来、アキバのことを、学校には誘わなかった。
それに、学校のことも、同時に話さなくなった。
それなのに、今、アキバはこの学校の、この教室にいる。
あのトラウマが、また蘇ってしまうかも知れないのに……。
「アキバさん。またきてくれて、嬉しいですよっ」
まず最初に話しかけてくれた少女は、学級委員長だ。
その真面目さゆえに、
入学してからずっと、学級委員長だった。
そのため、あだ名は【委員長】だ。
「よろしく……えっと」
アキバが言い淀む……覚えてないのかよ。
一年の頃、最初はお前だって通っていたはずだろ。
「委員長だよ。そう呼ばれていれば、大体がこいつのことだ」
「んもう、失礼よ、トンマ君」
そんな風に、委員長に叱られた。
この叱られ方が好きな男子生徒がいるみたいだが、そいつらは変態だな……。
悪くない。これは同族嫌悪か。
「あー、ごめんごめん、委員長」
「まったく……あそこが小さい人ですね」
「ちょっと待て、委員長……」
「なんですか?」
「あまり、そういうことは言わない方がいいぞ……?」
「褒め言葉として受け取ってくれればいいですよ?」
「受け取れねえよ! そのままお前に返すわ!」
「せ、セクハラですよ!!」
「ええ!? その解釈なら、あんたが言ったことって、あれじゃねえ!?」
「……ナンノコトデショウカ?」
「なんで急に!? どうした!?」
「うぅ……、トンマ君に、傷つけられました……」
「その泣き真似をやめろお! いま、完全に目薬を差したところ、見えたから!」
「傷つけられたのは本当ですけどね」
「それはお互い様だろう……俺だって傷ついたんだからな!?」
「え!?」
「驚いているだと!? 自覚なしか!」
「ダウトです。トンマ君、嘘はダメですよ?」
「もう勝てねぇぇぇぇぇぇっっ!!」
委員長は無理だ……勝てない、と思わされている。
そう思わされている時点で、俺は委員長には一生、勝てない……。
頭が上がらねえよ。
ふっふふーん、と、満足そうに鼻歌を歌いながら、自分の席へ戻る委員長。
え、俺と喋って満足だったの?
おかしなやつ……。
まあ、基本的にアキバを避けない人って、めちゃくちゃ良い奴か、異常な奴だからな。
「あら、久しぶりね、アキバ」
「い、いい、い、異常な奴、きたぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
「なんですって!? 失礼にもほどがあるわよ!?」
ぷんすかと怒る彼女が、
そして、ここ一帯の土地を持つ、大金持ち。
……アキバよりも、資産で言えば上かもしれないな。
「しかし! 性格は最悪だ」
「誰に言ってるの!? どういうカメラワークなの!?」
「あ、ハチミツ、いたんだな?」
「なんで疑問形なの!?
あたし、確実にあなた方に話かけましたよね!?」
「さあな」
「おかしいのはあたしだけですか!?」
「おかしいな……幻聴が聞こえる」
「あたしは、ちゃんと存在していますよっ、ほら! ちゃんと見なさい!」
「うわぁあああああああっっ!?」
「何でよっ!?」
「ああ、ごめん。当たり前の反応をしちゃったよ……」
「いえいえ、全然っ、当たり前じゃないわよ!
その反応は、本来、おかしいからね!!」
「おまえが、おかしい……?」
「言ってないわよ!
なんで……っ、なんであんたとはこんなに噛み合わないわけ!?」
「そう言えば最近出た期間限定ハンバーガー、美味しいよな」
「噛み合わな過ぎる!!」
ハチミツが、ガックリと肩を落としていた。
ぜえはあ、と息を切らして。……やり過ぎたかなあ。
「あたしの目的は、あなたでは無くてですね……、そこのあなた! アキバよ!」
「え、私なの?」
「そうよ! あなたには負けないわ! 絶対に!!」
「うーん……、なに? なんのこと?」
「きー! 余裕ってことですか!」
「いや、単純に分からないだけで……」
アキバが目線で、助けを求めてくる。
……助けてやりたいが、ごめん、俺にも分からない。
ハチミツとアキバに、因縁なんてあったっけ?
「つまり、ハチミツの家とアキバの家は、分類こそ違うが、
同じトップということで、ライバル心があるだけなんじゃないか?」
「おお、なるほど、そういうことか」
「そうだとも」
「じゃあついでに、一つ聞くぞ」
「なんだ?」
「お前は誰だ?」
「――どぐふぇっ!?」
思い切り腹を殴ってやった。
理由か? ねえよそんなもん。
「な、なんで、殴ったっ!?」
「その説明をするには、少し遠回りをしなければならないが、いいか?」
「いいよ! さっさと説明をしろよ納得を寄こせ!!」
「分かった! ゴホン……、今から一億年前、人間が……」
「そこまで巻き戻る必要、あんの!?」
「だから遠回りするって」
「し過ぎだわ! し過ぎて目的地、見失ってんじゃねぇかよ!」
「結論だけ言うとだな、ムシャクシャしたから殴った、はい」
「それをすぐに言えよ! あのくだり、無駄だろうが!
というか、ムシャクシャしてたの!? 嘘だろおれら親友だよなあ!?」
「おえぇぇぇっっ」
「吐くほど嫌なのか!?」
どうもこの青年は、自称、俺の親友らしい。
本名、
「お前いま、失礼なことを考えてたな?」
「考えてねえよ。ただ、こいつ……う〇こ臭ぇな、と思っただけ」
「失礼の枠から飛び抜けてやがるよ!!」
すると、ヒガが泣きながら、アキバに助けを求める。
「なあ、おれ、臭くないよね? アキバ? ねぇってば!」
「う、うん……、大丈夫……」
「ほら見ろマコト! おれは、臭くなんか……どふえ!?」
「お前みたいな汚点が、アキバに触るなよ!」
「ノリが主人公だ!
いやいや、お前のものじゃないだろ――あと殴り過ぎだ、親友を!」
「俺のものではないが……でも触んな、気に入らん」
「理不尽!!」
そこで、朝のチャイムが響き渡った。
それを合図に、クラスのみんなが自分の席へ戻っていく。
「ふう……この続きはあとでやろうぜ」
「なんか知らないけど、分かった」
ヒガが席に戻る。
続きって、なんだ? またいじめていいのか?
「お前は鈍感過ぎる」
隣のハッピーが呟いた気がしたが、気のせいだろう。
俺も自分の席へ座り、隣を見ると、アキバと目が合った。
彼女がくすっ、と微笑む。
「っ!」
なんだか隣にアキバがいることが、恥ずかしいな……。
顔が緩むのを、どうにかしたいけど……、クソ、顔を洗いてえ。
「なんか、楽しそうだね、このクラス」
「ああ。まあ、変人がたくさんいるけどな」
『(――お前が言うな!!)』(クラス一同)
「でも――楽しいクラスだと、俺は思うぞ」
「うん……、もっと早く、来れば良かったかなあ」
「今からでも遅くないだろ、こいよ、これからもさ」
「そうだね……、えへへっ、うん、そうしよっかな」
『(か、可愛いっっ!!)』(クラス一同)
「あ、今日、お弁当を作ってきたから、一緒に食べようよ」
「え、いいのか? 助かった……じゃあ一緒に――、っ!?」
い、今、ゾクっとしたが――え、なに、敵意、殺意!? 学校の教室だぞ!?
『(なんでおまえがなんでおまえがなんでおまえがッッ!!)』(男子一同)
ひっ、ひぇええ……、殺意の赤いオーラが見えるぅう……ッッ!
「ア、キバ……、あの、さ……悪いけど、今日は――」
「やっ。一緒が、いいの」
『(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇえッッ!!)』(男子一同)
うぉおおい!! 俺、悪くねえじゃねえか!!
断ったらそれはそれでお前ら文句を言いそうだけど!?
『(今日中に……、殺すッ!)』(男子一同)
逃げなきゃ……、
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろっっ、逃げないと、殺されるっ!!
こうして、俺の命懸けの一日が、始まったのだ。
―――
――
―
スマホが震え、メッセージが届いた。
「ん? モナンからだな」
【先輩! モナンの出番、しばらくない気がします!】
「なんで分かるんだ!?」
すぐさま、もう一通のメッセージだ。
【時空を歪めてください】
「できるかバカっ!」
モナン、お前は、安らかに眠りなさい……。
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