第10話 学校へ行く科学者たち 前編
「そうそう、君にお願いがあるんだ」
「はあ」
まず今、この状況を説明しようか。
場所は校長室。
目の前にいるダンディな男性は、校長先生。
そして、今は放課後ではなく――朝だ。
今日は早めに学校へいこうか、と思ったのが失敗だった。
いつもより三十分も早く自分の教室に入り、自分の席に着いた。
なんとなく、机の中を探ってみたところ――細長いきゅうりが入っていた。
あ、これは関係ないぜ?
ハッピーの
この前なんて、大量に納豆が入ってて、教室のみんなから避けられましたから。
……絶対に許さねえ……とまあ、そんなことは今はどうでもいい。
本題に戻る。
きゅうりの奥に入っていたものが、もう一つあった。
一枚。手紙だ。
最初はラブレター、という可能性を考えたが、
この教室での俺の扱いが酷いので、その期待はしなかった。
他のクラスの誰か、という可能性もあるけど、
俺、そんなに人と関わり合いがないからなあ。
下級生、上級生の可能性も、同様に捨てた。そう、放り投げた。
あり得ないからな。
で、だ。
その手紙を見ると、読めないくらいの達筆で、トンマ君へ、と書いてあった。
(なんとか読めた……、自分の名前という身近なものだから脳が分かったのか)
この学校に書道部はないので、この字は先生だ。つまり、呼び出しってこと。
中身を読んで、校長先生から、というのは驚いた。
俺、まさか退学? いや、退学になるほどのヤバイことはしてないけどなあ。
あー、でも、一つだけ、あった。
アキバ関連なら、めちゃくちゃあるな……。
そんなわけで、俺は今、校長室にいる。
退学の話ではないようで、内心、ホッとするけど、
しかしこの人の頼みは……、正直、良いことが一つもないんだよなあ……。
「えっと、お願いってのは?」
ふむ、と校長先生は口を開こうとしない。
少し考え、やっとのこと、口を開いた。
「……実はな、その、
「あ、もう時間がないや。失礼しますね!」
「待てぇぇいっ!!」
ぎゅっと掴まれ制服を引っ張られた。
小さい子が、お母さんに欲しいものをねだるような感じで。
あと、もう分かっているだろうが、ダンディな校長先生はアキバの父親だ。
だから地下研究所という空間があるし、そこでドタバタしていることが許可されている。
だから、あまり逆らえないのだが……、
とは言え、あまり、であり、嫌だったら嫌と言える間柄ではある。
「勘弁してくださいよ。あいつが絡むと、ろくなことがないんですよ」
「だから君に頼んでいるんじゃないか」
「うわー、殴りてえ」
……ほらね、こういうことが言える仲ではあるのだ。
「じゃっ、そういうことなら失礼します」
「トンマ君、頼む。
あの子を一番分かっているのは、君だ。私よりも、よっぽどだ」
「……そんなことは、ないですよ……」
「それに、どうせ君にしか頼めない」
「……なぜ?」
「知っているだろう、あの子が学校に行かなくなった、理由を」
「…………」
「君にも、それなりのつらい過去があるのも、知っている。
だからこそ、あの子の傷を上手く塞げるのは、君だけなんだ」
「……はあ、分かりましたよ、なんとか、できるだけ、やってみます」
「助かるよ」
「で、具体的にはなにを?」
「ああ、簡単なことだ。君にはあの子が暴走しないように、見ていてほしい」
「無理」
「なぜ!? さっきの決意はどうした!?」
「冗談です。まあ、なんとかやってみますよ。……死人が出ないようには」
「死人!? おい、一体、なにが起こると思っているんだ、娘はなにをする気で――」
「では、失礼します」
「ここで話を終わらせるなぁぁぁああっっ!!」
そんなわけで。
ここまでが、朝の記憶。
そして。
ここからが、忙しい一日の始まりだ。
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