Case:1 雨はいつも唐突に 後編
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有無を言えない状況の為、パルクールで一直線に現場へ向かう。
普段は隠しているが、私の身体能力は人間のそれをはるかに凌駕しているため数分とかからず1キロほど離れた現場に到着した。
現場からは依然として轟音が鳴り、想像の範囲外の出来事が起こっていた。
そしてその中心には、異形の存在を発見する。
それはまるで無機物のような姿で、皮膚にあたる部分が流動する液体金属のような、メタリックなスーツになっていた。イメージとしては「ターミネーター」が近いかもしれない。
中でも歪曲した右腕部は、まるで金槌のような形状に変化していた。これを打ち付けることでビルやあの家を破壊したのだろう。
顔はのっぺらぼうだが、そのほかのパーツは右腕部を除けば人型を保っており、比較的まだ人間に近い部類だ。
右腕を何mも伸ばし、遠心力を利用してダルマ落としの要領で10階建てのビルを1階ずつ打ち砕いている。
「
「てえええりゃあああああああああっ!!!」
気付かれる前に接近して、間髪入れずドロップキックを喰らわせる。
急な不意打ちに反応できず、金槌の怪人は5mほど吹き飛ばされた。
そのまま接近し、二撃目、三撃目と拳を当てる。
そして回し蹴りを当て、地面に叩きつける。
しかし、吹き飛ばすことはできるものの、ダメージは全く入っていなかった。
ぬるりと起き上がった金槌の怪人が右腕を大きく振りかぶると同時に、ちょうど金槌の部分があたるよう右腕がニュッと伸びる。
「やばっ!!!」
間一髪で躱すことができたが、あんなのに当たってしまったらひとたまりもない。
回復能力も強化されているとはいえ、師匠のような不死身に近いわけでも無いので、直撃は即死に匹敵するだろう。
そのまま向こうも二撃目三撃目と右腕を振り回し、巻き込まれた周囲の家々を次々と破壊していく。
このままでは向こうの活動限界の前に、死者が更に増えてしまう。
かと言って未解放の状態で勝てる相手でも無い。
であれば。
「
心臓部に手を置き、解放の言葉を唱える。
闇人にも段階があり、第一段階から第五段階まで存在する。
潜伏期間の第一段階
怪人になる第二段階
人型でなくなる第三段階
宿主を含めた他の生命を取り込む第四段階
無差別に殺戮を繰り返す第五段階
そして、神話級の災害となる最終段階。
第一段階では感情の抑えが効かなくなり凶暴性が増加し、第二段階で怪人体に変身。
第三段階で完全に受肉し、第四段階から直接他種の生命を取り込むことで自己増殖が可能になり、私は
そして師匠に助けてもらった後もその影響は残っており、体の中に潜む「闇」の因子が常に体を侵食し続けているため、それを抑える為打ち込まれたのがこの「陽衡刻印」である。
刻印を解放する度、私の体はどんどん「闇」の因子に侵食されて行くが、その代わりに更なる力を得ることができる。
完全開放すれば第四段階の奴らと渡り合えるほどだが、あくまでそれは最後の手段だ。
パキンという音とともに、リミッターが外される。
左目が黒く染まり、赤い瞳孔が輝きだす。
そして一瞬で奴との距離を詰め、がら空きの腹部に一撃を叩きこむ。
【!!!!】
腹部にヒビが入り、悶え苦しむ声を上げる。
これはマズいと感じたのか、砲丸投げのように右手の金槌を回転させる。
物凄い突風が発生し瓦礫が吹き上げられるが、今の私には効かない。
「ふんっ!!」
闇人となった左目は人間の何倍もの視力を得ており、奴の動きもまるでスローモーションのように捉えられる。
そしてタイミングを合わせて上下で挟み込むようにキャッチ。
流石に全て止めきる事は出来ずに横にずれるが、受け止めることができた。
そして受け止めたならこちらのもの。
「せりゃああああああっ!!!!」
力の限り、奴と同じように砲丸投げの要領で真上に放り投げる。
【---!!!!】
突然の浮遊感に成す術無く宙に投げ出され、身動きが取れなくなった。
空中、それは自力で飛行できない人間にとって、一番無防備な状態。
普通人間は加えられたエネルギーを避雷針のように足から地面へ流す、その為「踏ん張る」という行為が成立するのだ。実際の人間の体は想像よりも意外と脆かったりする。
では空中では加えられたエネルギーはどこへ行く?
そう、答えは一つ。
どこにもいかない!!
放り投げると同時にワンツーステップでビルの屋上に上り、奴が落下し始めるタイミングで飛び出す。
跨った落下防止の為の手すりがはじけ飛び、弾丸のように私の体が上昇する。
「とどめっ!!!!」
そして奴と重なった瞬間、ストリートファイターの昇竜拳のように突き上げた拳が、奴のひび割れた腹部に直撃し、爆散。
余剰エネルギーはどこへも行くことなく、憑依者の肉体を覆うメタリックスーツを粉々に吹き飛ばした。
そして憑依者を抱え、ビルの壁面を蹴って落下の衝撃を緩和する。
憑依者の体から「闇」の因子の結晶が析出し、砕け散った。これでもう闇人になることは無いだろう。
しかし問題はそこでは無い。
「っていうかこの人やっぱり…」
闇人はその姿を怪人に変える。
今回のように強い衝撃を与えて、内側から「闇」の因子を弾きださなければ怪人から戻ることは無く、憑依者が誰なのかはわからない。
そして第三段階なら後遺症は残るが助かる見込みはあるが、第四段階まで進行してしまうともう助からない。殺すか殺されるかしか選ぶことができないのだ。
逆に言えば第三段階までなら人間に戻すことが可能なのだ。
この憑依者の顔、及び身体的特徴は、今回の依頼のターゲット、川口速人に一致する。
「さて、後は森芳さん達に任せるとして…… ん?」
その時、大地が揺れ始める。
震源地はすぐ近く、崩れたビルの地下からだった。
「ん…? えっえっなになになに!!!?」
揺れで目を覚ます速人さん、しかしそれは遅すぎた。
ボコボコボコと地面を抉る音の後、飛び出したのは巨大な肉の塊だった。
円柱状のぶよぶよとした外見に、外側に大きな口のような穴がついており、口のついている面には貝殻のような半球状の鋼殻が付いている。
これは芋虫というより…
「やっ、やだっ、助けて!!! 助け―――――
それは物凄い速度で接近し速人さんを取り込み、そのまま地面へ潜ろうとする。
まさに木を食べるフナムシのようだ。
「待ちやがれっ!!!!」
食われたターゲットをみすみす逃すわけにも行かない。
しかし尻尾をつかもうとするも、潜る際にシェイブした大質量に弾かれ吹っ飛ばされる。そのまま壁に叩きつけられ吐血してしまう。
そしてフナムシはそのまま地面を掘って消えていった。
―――――――――――――――
「……へぇ、で、そのまま戻ってきちゃったと。」
同日、17:42分 いつもの事務所にて。
何気に30分予定より遅刻したことをなじられたが、とりあえず今回の事件について報告した。
「だってどんぶら粉みたいな移動をする第三段階なんですよ? 追いかけようがないじゃないですか。」
そう、不思議なことに、そのフナムシが掘った場所は数分足らずで元に戻ってしまった。まるで時が巻き戻ったように、アスファルトの地面が浮かんできたのだ。
「まぁ勝手に第二解放されても後々面倒ではあるんだが…
で? その芋虫の予想は付いてる訳?」
「ええ。確率的には8割程ですが…っと」
ポケットにしまっていた携帯から着信音が鳴り響く。
牧場さんに頼んでおいたデータの解析が終わったそうだ。
あの後S市の山で速人さんの死体が発見された。
死因は鈍器による強打。後頭部を何度も打ち付けられ、頭蓋骨も完全にひび割れていたそうだ。
そして当然ながら事件性の疑いがあるとして彼の寮室は今現在警察が捜査している。
その為USBにデータログだけコピーし、今彼の自宅で解析してもらっていた。
「はい、はい、了解です。」
「どうだった?」
「解析は成功、逆探知から発信源の割り出しができたみたいです。」
割り出された住所は、意外、ある意味では予想通りの場所だった。
「闇」に憑依された人間は、感情の抑えが効かなくなる。
そして、簡単な変換アプリを使用したとはいえメモ帳に保存されていた内容、つまりメーラーで受信された文章だった可能性が高い。
同級生とは殆どつながりが無く、寮暮らし。またネトゲにハマっていると来た。
これまで得た情報から、予想される犯人はただ一人。
「犯人は――――
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