第3話 バスカー


「わかってるんじゃん」と、僕等はカケアイ漫才みたいに丁丁発止と遣り合っていると

ここはバスターミナルなんで、バスの運転手さんとかコンセルジュのお姉さんとかが

くすくす笑いながら通りすぎて行く。




僕等はちょっと恥かしくなった。楽器を持って漫才してしてるなんて。




scene #2 cut #3


同じ事を思ったのか、シュウは

「それ、ピアニカだよな、こないだ中庭で吹いてた。」



「そう。」

.....丘の上にあるぼくらのキャンパスは、傾斜地に立っている。

理工学棟の方の中庭はスロープの途中、峰に近い方にあるので

中庭が階段状になっていて、それで音が広がる。

だから、楽器の練習には丁度よい場所だった。

学食から近く、大学生協の前の、芝生のところが僕のお気に入りだった。



「んでも、ピアニカって随分ツウ好みだよな~」と、シュウは言い

彼は背負っていたフェンダー・ストラトキャスターとミニ・ギターアンプを下ろし

地下道入り口の塀になっているコンクリートに寄りかかった。


僕も寄りかかる。冷たいタイルの感触が心地よい。


その感触に、季節が移ろい行く事を実感する。ついこの間まで、寒い寒いと

僕等は言いながら手を擦りゝ、路上ライブをしていたのに。


今はもう、初夏が近いような.....。


僕はどちらかと言うと、感触、手ざわりのようなイメージを記憶する。

この友人シュウの事も、生成りのコットン、と感じるけれど

それは見た目の印象もそうだけれど、あの、手触りのイメージを連想するんだ。




「あの子」の事を僕はどう感じているだろう.....。

咄嗟にモニター越しの画像を見て定型詩を思い浮かべたけれど、イメージとしては

麻のようだな、と感じていたように記憶する。


なんとなく、だけれども。


こういう連想は不思議だと思う。けれど、僕が思うには

洋裁が上手だった母のおかげで、幼い頃から色とりどりの布地を見ながら

育ってきたせいもあるだろう.....。





「なあ、シュウ?」と、僕は、彼の感覚を聞いてみたくなった。



「ん?」と、何気なく彼は返す。




「なんかさ、心の中に、こう、イメージが浮かぶ事ってある?色とか文章とか...。」




彼はすこし考えてこう言う。「んー、そうだな、やっぱり音かな。音、響いているイメージ・フィールド。音楽、みたいなカタチのあるものじゃなくて、響いているイメージ。」


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