第2話 しゅう


「おーい!!!松ー、ごめん。」と、駅の方から、フェンダー・ストラトの

ケースを抱えたシュウ(Sの本名は深町 珠と言う)。が大声で。

(ちなみに松、と言うのは僕の名、柳 松之を縮めて皆がそう言うんだ)。


車がひっきりなしに通る騒々しい通りを掻き消すくらいのシュウの大声。ハズカシイ奴だ...と視線を逸らす


..と!。


郵便局の前、taxi-poolの向こうを歩いていくか細いシルエットに僕は陶然となる。


風に舞い散るさくらの花。


それをヴェールに纏うかのように。薄いパステル・トーンを身につけた長い髪の彼女は....。


あの時の!。



「おー、わりぃわりぃ、松?なんだ、どうした?」シュウは、無神経に雰囲気を壊す(笑)。


僕は、折角Wonderful-momentに感激していたのに。とムッとしてシュウを睨む。


その隙に蜃気楼のように、彼女は消えてしまっていて


どう目を凝らしても、見つからなかった。



春霞 桜花舞散る 昼下り...


あれは、儚き幻影なのだろうか。と、僕はモノ・ローグ。


気づかなかったシュウは、意味ワカンネー、と屈託無く笑っている。

そこが彼のいいところだけれども。





Scene#2 cut#2



「....いま、いいとこだったのに!」と僕は、シュウに言う。



「ああ、ワリィな。なんだ?いいとこって。」シュウは、無神経っぽいが、ざっくりとた生成りのコットンみたいないい奴だ。


今日は、春だと言うのに時代遅れのMA-1ジャンパー、それにストーンズのワッペンを貼ったやつ、もう10年は着てるような古着、それにユニクロのコーデュロイ、ぼろぼろのベージュのを穿いている。


いつもみんなにからかわれるのだが、なんか想い出があるらしく、その格好を崩さない。

そういうcoreがある感じの彼と僕は、なんとなく同調する感じ。


彼は東京生まれの東京育ち、気取りのない下町ッ子、3代続いた寿司屋の跡取の筈、だけど

中卒で店を継ぐのが嫌で出奔、今名乗ってる苗字は親戚の叔父さん、(ミュージシャンだという話)の苗字だと言う...訳分からない(笑)奴だ。



僕はと言うと絵に書いたような田舎者で、生まれも育ちも青森。だから文学部なのかと言われるとその通りで、子供の頃から本ばかり読んでいた。本を読みたくて幼稚園を中退したような、

そういう人間。これがどうしてシュウみたいな奴と仲良くなれるかと言うと、やっぱりそれは音楽って言う言葉が解るから、なんだ。



「うん、ホラ、お前が来た時、丁度あの子が通りかかったんだよ。」と僕が言うと、シュウは


「あの子って?」と、呆けて言うから、僕は



「ほら、こないだのエレベーター・ガールだよ」



「デパートのか?」



「あーもう、ニブいなぁ、あの...。」



「モニターに映ってた子か?」



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