残業バレンタイン

うみとそら

チョコ

2月14日(月)22:00


【カズヤの場合】

ビルの窓から空を見上げると真っ暗だった。

「あー、今日は終電までには帰りたい」

社内には誰もいないので独り言で寂しさを紛らわせていた。

カズヤはこの会社に新卒で入社をして5年目になる。

「会社説明会ではこんな残業するって言ってなかったじゃんー」

疲れで元々のタレ目がさらに垂れてる気がする。

「よし!あと1時間で終わらせるぞ!」

時間を決めて資料作成を始めようとしたところ、オフィスに誰かが入って来た。

「あ!先輩!」

ドアの方から可愛いらしい声が聞こえた。

「お、シズカか。どうした?忘れ物か?」

首だけ振り返って見ると、小柄で茶髪のボブヘアの可愛らしい女性が見えた。

「ちょっとお弁当箱忘れちゃって」

てへっという感じでベロを出してるあざと女子は2個下の後輩のシズカだ。

「そりゃ持って帰らなきゃだな」

「そうだなっ」

「オレ先輩だぞ、敬語使えな」

こんな感じでオレのことをなめている。

「はーい」

ただ、やはりと言うべきか、社内の中でもシズカの人気は高い。

彼氏はいないとのことだったから、狙ってる男性陣は多い。

「先輩は何やってるんですか??」

そういいながらオレの座っている横にきて、机にあるパソコンを覗いてきた。

「明日の資料作成」

「さすが先輩!期待のエースだから仕事たくさんですねっ」

「仕事が遅いだけだよ」

「そんなことないです!みんな言ってますよ?」

「なんて?」

「カズヤさんのおかげで会社の成績が上がってるって」

「そんなわけないだろ、偶然大きな案件を任されてるだけだよ」

「いやいや!大きな案件任されるってことは期待されてる証じゃないですか!!」

「そうか?まあ、ありがとう」

「はいっ。じゃあ褒めてあげた分のお礼としてラーメン奢ってください!」

怖い後輩だ。

「やっぱり何かあると思ったよ」

そういうところが可愛いんだろうな。

「うそですよー。もー」

右頬を少し膨らませて、怒ったような仕草をした。

「はいはい」

「あ!そうだ!」

そう言って、シズカはオレの斜向かいにある自分の机に行き、引き出しから何かとりだぞうとしている。

ゴソゴソ。

ちょうどシズカのパソコンが壁となって何を取り出してるかが見えない。

「ん?どうした?」

シズカは取り出した物を後ろに隠しながらまたオレの席に来た。

「はいっ。これあげます!」

渡してくれたのは綺麗に包装されていた何かだった。

「ん?あ、ありがとう。何これ?」

「先輩わざとですか?」

「え?あ!もしかしてバレンタイン!?」

そうだった。忙しくて本当に忘れてた。

「ピンポーン!あげます!」

「まじか!ありがとう」

そういえば去年もこんな感じでシズカからもらってたわ。

けど、一気に食べすぎたせいか、次の日はお腹壊したんだよな。

「ちなみに、チョコは去年も今年も先輩にしかあげてませんよ?」

「え?」

一瞬、思考が停止した。

「じゃっ。お先に失礼します!」

オレがその意味を聞く前に走って帰ってしまった。

「お、お疲れ」

誰もいないドアに向かって言った。

「え?どういうこと?!ねえ!」



【シズカの場合】

先輩にチョコを渡したあと、下に降りるためにエレベーターに乗った。

ふふ。

「先輩喜んでくれたかな?」

ふふふふ。

「絶対喜んでるよね?」

ふふふふふふ。

「下剤入りチョコ」

先輩のあの弱々しい目が大好き。

「いつか先輩をズタズタになるまで壊したい」

狂気をはらんだ目が笑っていた。

「先輩大好き♡」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

残業バレンタイン うみとそら @colorFFF

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ