第5話 平安ポッキー

システマチックでメカニックな音が響く。

ここはとある量子物理学者の研究室である。

実は今日、この研究室にて、人類史上最大の科学的進展が起きようとしているのだ。

「堀木(ほっき)博士、やりましたね......やってしまいましたね......」

「あぁ武律くん、私は完成させてしまったらしい。タイムマシンを」

そう、堀木博士はタイムマシンを独自の理論で作り上げてしまったのだ。

「私の理論通りであれば、このタイムマシンは過去にも行くことができる」

「僕は今、博士が誇らしいと同時に恐ろしいです」

「ど、同感だ」

堀木博士はおもむろに出来たてほっかほかのタイムマシンの座席に着いた。

無機質で硬いステンレスの椅子が、博士の尻を冷やす。

「もう行かれてしまうのですか、堀木博士」

「その為に今日まで死にものぐるいでやってきたのだ。学会では異端児扱いをされ、妻には捨てられ、娘には孫の顔も見せて貰えない。それでも私は耐えた。何故か」

頬を伝う一筋の涙をボロボロの白衣の袖で拭い、世紀の大科学者は叫んだ。

「西暦1111年11月11日に行って、真のポッキーの日を堪能するためだ!!!!」

武律氏は博士の手を強く握った。

「堀木博士、お供できないことが悔しくてしょうがないです。がしかし、僕はきっと博士の名声を現代で取り戻して見せます」

「ありがとう、武律くん。君のこれまでの協力には到底並大抵の感謝では足りない。君の科学的人生がこれからより良いものになることは、この私が保証する。ありがとう、そして頑張ってくれ」

「博士ェ......」

堀木博士はタイムマシンの行き先をセットし電源を入れた。

「それでは、行ってくる」

「どうか、ご無事で」

そして遂に、発進スイッチを押し込んだ。

刹那、どん!という音がしたかと思うと、もうそこに堀木博士とタイムマシンの姿は見えなくなっていた。


達成感と喪失感の波に揉まれ、武律氏はただ呆然と部屋に佇んでいた。しかし、机の上に妙なものがあることに気がついてしまった。

「赤い、箱?」

行って手に取ってみる。

箱の表面には、アルファベットでこう書いてあった。


Pocky


さらにその上には、マジックペンでこうも書いてあった。


真のポッキーの日用


「は、博士ェええええええ!!!」

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凡人万歳 赤坂大納言 @amuro78axis

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