第2話
実家に五年ぶりに帰った。親が思ったより老けててびっくりした。でもやっぱり実家は実家だった。街は色々変わってたし、お気に入りの店は潰れてたけど、雰囲気自体は私がいた当時の香りを残していた。
ある日親父の書斎を漁っていたら、ビデオカメラとテープが出てきた。私は意外にもこれらをちゃんと覚えていた。物心がつくかつかないかくらいまでであったが、確かに私はこれを回す両親の姿を朧気に覚えている。無論、撮られたものを見ることにした。
テレビに接続して、カメラにテープをセット。懐かしさのあるシステマチックな動作でテープが飲み込まれていくのを確認してから、開始ボタンを押す。
幼稚園の運動会の時の映像だった。徒競走のシーンから始まる。自慢じゃないが、幼い頃の私は足が早い方で、万年トップでゴールしていた。
三年間ずっと一位だった。そのはずだった。しかし、ビデオ内の私は三位だった。
まぁ小さい時の記憶なんてそんなものだろう。それにしても過去の美化が極端だったので、少し笑ってしまった。
次は親子で参加する競技だった。仕事で普段家にいない親父が唯一参加してくれる行事が運動会なので、毎回親父と参加していた。確か親父も結構嬉しそうに手を繋いでくれていたと記憶している。はずだった。
一緒に映っていたのは祖父だった。祖父も私も嬉しそうに借り物競争をしていた。
その後も幾つかビデオを見たが、全て私の記憶と違うことがビデオには映っていた。単純に、幼稚園の頃の記憶なんてそういう美化されていたり曖昧に覚えているものばかりなものなのかもしれない。しかし、それにしても全て違うなんて言うことがあるのだろうか。特に私は哺乳瓶でミルクを飲む場面を覚えているくらいには、比較的幼い頃の記憶が鮮明な方だという自負があった。
私はなんだか怖くなって、ビデオとテープを全て奥の方にしまった。
あれは本当に私を写していたのだろうか。
それからというもの、両親を見ても街を歩いていても、懐かしさを何も感じられない。
ここは本当に私が育った街なのか。この両親を名乗る二人は本当に私の両親なのか。私の記憶は本当に私のものなのか。考えれば考えるほど、頭が痛くなっていった。
そして思い出した。
そういえば、私の祖父は私が生まれる前に亡くなっていた。
ここはどこだ?
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