第90話

空間が割れ出す。其処から出現するのは無数の軍だ。


黄金の騎士、白銀の騎士、木馬に乗った王様、杖を振り回す老人。双剣を構える兵士、槍を握り締める傭兵、吸血鬼、ミノタウロス、スライム、翼の生えた人間、ゴーレムにゴブリン、デーモン、そしていつか見たマネキン人形に四つ足の機械、生殖器の見当たらない中性的な人間。その他、その他、その他―――大群。地平を埋め尽くす軍が蠢き出す。


「ハルヴァン帝国歴代大帝直属精鋭軍、魔界十大魔王大列軍、独立国家ギアロウギガ・クローンズソルジャー。総勢にして約36万、これぞ〈征服者〉の能力。あらゆる王の頂上に立つ力、初めから……貴様らに勝ち目などない」


そう機械甲冑の男が誇らしく叫んだ。

その数は圧倒的だ、今からこれらを相手にすると思うのならば……かなり絶望的だ。


「あぁクソ、なんだそりゃチートかよ……」


「この数はちと骨が折れるわい……」


二人は少しだけ弱音を吐いた。

しかし秒を跨ぐ事無く構える。


「上等だ、掛かって来いよ、フリーターの底力見せてやらぁ」


「あァ、久方ぶりよこの死地は。武者震いとはこのことか……ふはッ。腕が鳴るわぁ!」


そんな二人のやる気を前にして申し訳ないが、俺は彼らよりも前に出て手を構えた。


「此処から先は混乱します。なので、向かうモノは全て敵とみなしてください」


俺は予め忠告した、そして、職業・契約者の能力を発揮する。


――――『契約者の契約能力は、死後も有用であり、その縛りは因果すら凌駕する』


カルサ・エルゴ神が俺の契約者としての能力をそう教えてくれた。


『それは魂に直接結び付かれ、例え死んで輪廻転生を果たしたとしても、魂がある限り、契約の内容は継承されるんだ』


そう。その能力は死後も有用だ。

つまりは……死んだ後ですら、会話が出来て交渉が出来るのならば、契約が可能と言う事。

其処に魂が宿っているのならば、どの様な内容であろうとも。契約は遂行される。


「――――来い、マスマンッ!」


俺が死後の世界で、ある契約を行った。

それは、冥府の王、マスマンとの契約。

シュテイルが神になれば、この死後の世界すら崩壊される。

故に、本来中庸であるマスマンさんと契約する事が出来たのだ。


「さぁて……それでは始めますか―――〈ようこそクソだらけの世界へノック・ノック・ハロー・ライフ〉」


そして、空間に出現する無類の扉。

空間を埋め尽くす扉は、空にびっしりと扉が出てくると、ゆるりとドアノブが動く。

そして、飛び出てくるのは死者の群。

マスマンの能力は死者を呼び寄せる。

冥府……死の世界に存在する全ての生物を呼び寄せているのだ。

今まで、この地球で生まれて、そして死んでいった人……その数は多分、百億を超えている。


「数で勝る戦いなら……俺たちの方が強いよ」


数え切れない魂、死者の群れが、シュテイルたちに向かい出す。


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