第91話 残り9話
「防御魔法ッ!」
黒服赤髪の男が叫ぶと同時に、シュテイルの前に溢れ出す死者の群を止める不可視のバリアが出てくる。
「ははは、死者がゴミの様だ」
と、笑うマスマンさん。
俺たちは死者が築く山の上で周囲の光景を見ていた。
死者と言ってもそれは血の様な赤黒く硬質化された塔の様な代物だが。
「おい遊飛ィ、これ、何人居るんだ?」
山の上に上る玄武さんがそう聞いてくるが俺でも分からない。
ただ分かるのは見渡す限りに死者の群が出来ている、と言う事。
草陰さんも小春さんを連れて死者の山の上へ登って来た。
「圧巻よなぁ……が、それで終わるとは思わないが……」
ドンッ、と爆破の音が聞こえると同時に死者が吹き飛んだ。
そして死者の中から出てくるのはゴッド・エンジェルクイーン。
背中が焼け焦げ、皮膚が爛れている。爆破に巻き込まれたのだろうが、彼は別段気にする様子無く、死者の肩や頭に足を掛けて走っている。
「ひゅぅううう!こりゃぁ凄ェ!人がゴミの様だぁ!!」
あ、言っちゃったよ。
マスマンですら言葉を変えていたのに……。
いや、それはどうでも良い。
死者の群れから出てくるのはゴッド・エンジェルクイーンだけじゃない。
タンクトップ姿の男が死者の群を殴って吹き飛ばしながら此方に近づいてくる。
「ちッ!強いなあのモヒカン野郎」
そう玄武さんが舌打ちすると、俺の方を見てくる。
「取り合えず、アイツは俺が止めてやる。この人込みを掻き分けるくらいだ、大方馬鹿力なんだろうよ」
だから玄武さんが対応すると。
俺はそれに頷いた。
「分かりました、死なないで下さい、玄武さん」
「死なねぇよ、俺を誰だと思ってんだよ?」
「フリーター。ですよね」
「違ェよ」
そうして、玄武さんは若干言葉を溜めながら吐いた。
「〈時空者〉玄武準呉様だ、もうフリーターとは言わせねぇぜ」
そう恰好付けて降りていく、モヒカンタンクトップ男には玄武さんが対応してくれる。
「では………儂はあのスーツの男をやるとしよう」
小春さんを山の上に置き去りにして、草陰さんは木刀を握り締める。
「遊飛くん、キミは神になりたいかい?」
と、草陰さんが唐突にそう聞いてきた。
俺は草陰さんの言葉に、うーんと、唸り声を上げる。
「正直、俺が神にならなきゃどうしようも無いってだけで、神とか、興味は無いですね」
ここまで来て、こんな言葉を吐いてしまう。
しかし、子供らしい答えだと自分は思った。
偽りのない言葉だ。それを聞いた草陰さんは頷く。
「ならば……善処しよう」
含みのある言い方で、草陰さんが下りた。
その瞬間、シュテイルの方にも動きが見えた。
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