第82話

「さて、もうじき君は生き返るだろう。そうなんだろ?マスマンくん」


マスマンって誰だ?

と思ったら急に庭から黒い影が出て来て、その姿を現す人影があった。


「へぇい。カルサ・エルゴさん。もうじきですねぇ」


そこに出てきたのはタキシードにシルクハット帽子を被る英国紳士だ。

杖を突きながら此方へと近づいてきて、カルサ・エルゴ神の傍に来る。


「彼は冥府の王だよ。死者を統括する存在。死者を操り、転生の手伝いも行っている」


へぇ……なんかすごい人なんだなって言うのは分かりましたけど。


「あと十分、あちらの世界じゃ十日も掛かってますけどね。そろそろ扉が開きますよ」


扉?ってなんだ。


「扉、死者が通る蘇りの道。生き返るモノのみ、その扉を開く事が出来る」


と、マスマンさんが改めて説明してくれた。

つまり、あと十分もしない内に、俺は生き返る事が出来るのか。


「また、戦う、この世界を継続させる為に……」


「ま、そー言うワケだな」


「キミには苦労を掛けますね」


「オメェーは大してそう思っちゃねぇだろうが」


そんなやり取りを俺は苦笑いをしながら見つめる。


「……そうそう、我が息子。キミにはね、少しだけサプライズがあるんだ。気に入ってくれると嬉しいんだけどね……」


サプライズ?

これ以上のサプライズってあるのだろうか。

なんて思いながらも、カルサ・エルゴ神が指を鳴らした。

それに合わせて、マスマンさんが胸元から黒いカーテンを取り出すと、それが人の影を作り出した。

まるで、カーテンの中に人が包み込まれているかの様に。

そして、カーテンが引かれると同時、其処には、見覚えのある人の姿があった。


「………あ、幸玖………」


「………お、母、さん?」


其処に立っていたのは、お母さんだった。

白髪の混じった黒髪、それを一房に纏めて、目尻には多少の皺が刻まれている。

贔屓目で見るワケじゃないけど、お母さんは綺麗な人だ。


「………苅沢さんも、こんな所に」


苅沢……それは、多分カルサ・エルゴ神の偽名なのだろう。

俺は、お母さんとカルサ・エルゴ神の間から生まれた子供だから。


「やあ、幸良さらさん。お久しぶり」


と、にこやかに挨拶をするが、お母さんはカルサ・エルゴ神を睨んでいた。


「そんな顔しないでよ、まるで嫌われてるみたいじゃないか」


「嫌われてんだろ、クソ神」


「なんで?ちゃんとお金が振り込まれる様に設定したのに?」


「金で解決出来る富豪層と同じ思想じゃねーか、死ねクソ神。死んでたわ、ザマぁみろ」


そんな軽口を叩き合う二人だったけど。今は気にしない。

だって、もう母さんの視線は、俺の方を向いていたから。

俺も、お母さんに向き合わないといけない。

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