第81話

「シュテイル……と、その下に付く我が息子たち。あれらは世界を消滅させようと考えている。それに、ゴッド・エンジェルクイーぶふぅ!」


あ、カルサ・エルゴ神が笑った。どうやらあの白モジャスーツのお兄さんの名前がツボに入ったらしい。


「ふふ、あぁ……すまないね。あれら二人が神の座に付いてしまうのはダメだ」


と、カルサ・エルゴ神がそう言った。

シュテイルは当然、神の座に付いたらダメな存在なのは分かる。

事前に彼は、この世界を再構築……新世界を創造すると物語っていた。


「シュテイルが神になったら全てがリセットされてしまう。そうなれば……私のコレクションも全てがパーになる」


つまり、ガチャそのものが消滅してしまう、と。カルサ・エルゴ神は言う。

コレクションが消えると言う事は、クインシーたちも諸共、消えてなくなってしまう。と言う事。……あぁ、それは嫌だな。


「だから、俺は普通の世界にする為に……」


「普通の世界?ふふ、いやいや。その選択もしたらダメだよ」


カルサ・エルゴ神は顔に付着したクリームをハンカチで拭きながら言う。


「普通の世界、神になればその選択も可能だろうね、だけどそれを選んでしまえば、世界からガチャの効果も消失してしまう。キミの愛するクインシーも二度と会えないだろうし……」


あ、そうか……でも、俺一人の我がままで他の人間を危険にさらすわけにはいかない。


「考えてみたまえよ我が息子。世界からガチャの効果が消える。それはつまり、ガチャから排出されたアイテムを使用した、と言う結果すら消えてしまうんだ……所で君は何回回復薬を使用したんだい?」


え、あ?なんで回復薬の話……って。

え、まさか。回復薬を使用して、怪我を直した結果すら消えてしまう、のか?

なら、俺が回復薬で治癒した、その結果が消えたら……治癒する前の、傷を受けた状態に戻る、と言う事?


「それに、死んだ人間を生き返らせる為にアイテムを使用した人も居るだろう……蘇生を使役した人間の数は僅か二百名程だが……回復薬を使用して傷を治した人間は現在生存している人間の内九割が使用している。そして……回復の結果が消えてしまって、死亡する人間は七割も存在するんだ、ふふ、僅か三割の人間が、どう世界を立て直すのか見物だねぇ」


「まどろっこしーぞ、クソ神。正直に世界を普通にするのは止めて下さいって言えや。そして、クソ神と同意するのはクソだが、ガチャに眠る俺の同族が消えるのは嫌だ。だから普通の世界も世界の再構築もゴメンだぜ」


二人は、この混沌とした世界を望んでいる。

俺も、玄武さんも、草陰若丸さんも、回復薬で肉体を癒している。

なによりも……草陰小春さんは、死んで、再び生き返っている。

普通の世界になれば彼女が死ぬ。それは、駄目だ。

彼女自体が死ぬのもダメだし。普通の世界に戻して、其処で大勢の人間が死んでしまうのもダメだ。


「まあ、モンスターの消滅もまたガチャに分類されているからね、良いトコどりも出来ない……なら、もう選択は狭まるねぇ」


「……この、混沌とした世界を、継続させる」


それが、最も最小限の犠牲が生まれない策案。

少なくとも、俺はそう思った。


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