第76話

次に目覚めた時。

玄武準呉は明るい空を眺めていた。

自分は一体、何をしていたのか、まるで分かって無かったが、徐々に神の末裔が襲撃しに来たのだと思い出すと、辺りを警戒し出した。


「クソ、朝になってら、何してたんだ、俺はッ」


両手を構えて、他に誰か居ないか、玄武準呉は周囲を見渡す。

近くには、草陰若丸と、草陰小春が眠りに付いている。

サチは言葉を話せないが、目を腫らして眠るイアネルをあやしていた。


「なんだよ、何があったんだ……、そういや、遊飛は?」


玄武は遊飛幸玖を探す。

この広い道路で、朝日が道を照らしているのに、何故か彼の姿だけは何処にも無い。


「~~~、~~~~」


耳を澄ませば、人の声が聞こえた。

それは、クインシーの子守歌だった。

声のする方に、玄武準呉は歩いていくと、クインシーの後ろ姿があった。

周囲には、誰にも近づかせない様に、結界の如きチェーンソーの切傷痕が残る。

その中心に、純白の花嫁衣裳を着飾る、クインシーの姿。

何かを抱えて子守歌を口遊んでいる。


「……おい、クインシー、遊飛何処行った?」


玄武が聞く。

クインシーは答えない。


「チッ、おい、なに遊んでんだ、テメェ!」


そう叫び、チェーンソーで傷いた結界に足を踏み入れた瞬間。

クインシーが振り向き様に玄武準呉に向けて、チェーンソーが振るわれた。

彼の顔面、その目の前に止まるチェーンソーに、玄武は喉を鳴らす。

はじめて、クインシーが玄武準呉に正面を向いた事で、その全貌が明らかになる。

クインシーが胸元に当てているのは、小さな穴が開いたスマホだった。

その穴から亀裂が走っていて、画面はもう、起動出来ない様子だった。


「それ……遊飛のスマホだろ。おい、マジかよ……」


〈汞の王〉ゼシルが狙ったのは、遊飛幸玖のスマホだった。

スマホを破壊出来れば、その持ち主も死亡する。

それを狙って、確実に殺す為に、ゼシルはスマホに向けて攻撃したのだ。


「放って置いて下さい」


そうクインシーは涙を流して、スマホを抱き抱えていた。

もう、遊飛幸玖は死んだ筈なのに。玄武準呉は歯ぎしりをして、クインシーに近づく。


「おい、スマホ渡せ」


「……これ以上、私から、何を奪うのでしょうか」


チェーンソーが玄武準呉に向けられる。

それでも、玄武準呉は歩み出す。


「旦那様は、亡くなりました。このスマホだけが……私の全てなのです」


「あ?なら、なんでお前らは消えて無いんだよ。遊飛の召喚獣であるお前らが、何で消えて無いんだよ」


玄武準呉は核心を突いていた。

その言葉に、クインシーはハッとさせられた。


「この世界のルール。スマホを破壊された場合、死亡扱いになる。そして十日後に削除される。なんでだ?なんで回りくどいルールにしてると思う?死亡と削除は別モノなんだよ」


前例を上げれば。

未だに眠る、草陰小春。

彼女は死んだが、アイテムの効果によって生き返る事が出来た。


「削除されない限り、アイツはまだ生き返る可能性がある……泣いてる暇なんざねぇ。スマホを寄越せ。遊飛を生き返らすんだよ」


死んでも、終わりじゃない。

その言葉に気圧されて、クインシーは、玄武にスマホを渡し、それを奪い取るかの様に強引に取った。

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