第73話
相手の手札を確認しよう。
まず〈汞の王〉ゼシル。
彼女の肉体は水銀に変換する事が出来る。
液体を極限まで伸ばす事で針の様に刺突を行ったり、地面への接地部分を動かす事で高速移動も可能。
遠距離技であろう水銀の刃、あれは離れた状態、且つ、高速移動した末に放つ事が出来る。
威力が高い分隙が多い、行動次第で手数が絞られるから脅威度は低い。
面倒なのは水銀の体。自在に変形する事で逃げられるし、仮に攻撃しても防御膜を張られたらダメージは少ない。
けど、一度サチが放った炎に対してはマータッドによる補助があった。
それから察するに炎を弱点と見ても良い、けど生憎、俺の手札じゃゼシルを燃やす技は無い。
近距離が厄介だからゼシルが接近戦を求めた場合のみアルターによる時止めで距離を取るのが最適な手段だろう。
そして一番脅威度が高いのは〈夜の王〉マータッドだ。
アレが扱う能力は対象者を眠りに誘う効果だけだ。
後は闇の霧。あれがサチの炎を完全に遮断してみせた。放った闇は硬質化でもするのだろうか。
そうであるならば厄介だ。闇の霧で拘束されて、ゼシルによる攻撃をされたら完全に積みだ。
何故なら俺には防御を行う場合の手札が少ない。召喚獣は精々数体。それを盾にしてやり過ごしても攻撃を繰り返されたら手札は無くなってすぐに攻撃からの死へ繋がる。
そして最も恐ろしいのは、恐らくマータッドはまだ本気を出していない。
これ以上に恐ろしい能力を使う可能性がある。マータッドは自ら「夜が来れば」と言っていた。残り数分で完全な夜に代わる。
マータッドが実力を発揮するのならば完全な夜の時だろう。
逆を言えばあと数分マータッドが本気を出す事は無いと言う事。
ならばマータッドを優先に撃破すれば勝機はある。
けれど、その勝機は限りなく低い。
俺は弱い。たかが召喚獣を操るだけの一般人だ。
あくまでも俺が強いのは召喚獣が傍に居るから。
そして、玄武さんやクインシーが俺の傍に居てくれたから、俺は安全圏で戦ってきたんだ。
「行くぞ」
俺の傍に誰も居ない時。
それが多分、俺が初めて自分で戦う瞬間なのだろう。
俺はスマホを構えて、アビリティをセットし直す。
「アルター、ゼシルを頼む」
俺はアルターをオートで活動させる。
ゼシルに向かって歩き出すアルター。
そして俺は、マータッドに向けて拳を構えた。
「アレ?一人デスカ?嫌だナァ……ボク、弱いなんて思われてルノカナ?」
そう言うが逆だろう。
マータッドの方が、俺を弱いと思っている。
あれが悠長に構えているのは、俺が弱いと知っているからだ。
逆に言えばそれしか知らない。
だから、そんなおちゃらけた言葉を発するが、内心は困惑しているはずだ。
俺がアルターを手放しても、それは何故かと考えている。
取り合えずは様子見と思うだろう。
相手の出方を見ようとするだろう。
その瞬間を狙う。
アビリティ構成は十分。
一撃を当てれば五分の確率で倒せる。
このまま、渾身の拳を当てる事が出来れば―――ッ!!
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