第74話
「ナラ、そもそも同じ土俵に立たなければ良いダケの話ダヨ」
そして……俺の渾身は外れた。
マータッドは肉体を黒い霧に変えて逃げた。
そして、道路沿いの、建物の屋上に立っている。
絶対に、俺の手には届かない場所に。
「卑怯とは言うまイネ。コッチも遊びジャ無いんダ。ワザワざ相手の攻撃を待つナンテ、ままごとみたいナ真似はしてアゲナイよ?」
……そう。
これは戦いだ。お互いに命を懸けた戦い。
其処に正々堂々も卑怯千万も無い。あるのは戦いに勝つ事、負ける事。
相手の攻撃を待つバカなど居ない。当たれば必勝に近い技なんて当たり前の事。
「キミが召喚獣を離しテ、攻撃を仕掛けるダナンテ、奥の手があると疑うのは当然ダロウニ。慢心はアルケド、油断は一切無いヨ。ボクには」
そうだ、俺よりも、相手の方が凄い。
だって、まだ時間はあった。そんな言葉に耳を貸す間に、俺はその拳を当てる為に奔走すれば良かったんだ。だけどそんな言葉に耳を貸して、動いていない。
マータッドは時間を稼いだんだ。自分が発動する条件、発動すれば必勝出来ると思う程の一撃を。それを発揮する為に、俺を言葉で惑わした。
「サテ、時間の様ダ。良い子も悪い子も、既に夜ニ触れる頃合いダネ……じゃあ、夜道ニハ気を付けテ、なんて……もう遅いケド」
夜が来る。
そして、当然ながら。
マータッドの能力が発揮される。
「〈
その名が口遊むと同時、マータッドは夜と同化した。
黒に黒を染める様に、闇が闇と混じり合って、濃くも薄くも無い浸透した夜となる。
マータッドの能力。夜と同化して、夜そのものになる能力。
だとすれば、マータッドと言う存在はこの空に広がる全ての闇で、目の前に広がる全ての暗闇。
広く、広大で、その全てがマータッドと言う存在で、その全てが夜と言う存在でしかない。
「サア、これで全てガ終わるヨ。全員、闇と共に消えて終わるヨ」
そう言った。
闇に触れた物質や存在を闇と同化させる、大方、この能力はそんな所なのだろう。
あぁ、強いな。それは、並みの相手なら成す術はないけど……まさか。
「マータッド。一つ質問をするね。君は闇と同化した。キミこそがこの夜で、夜こそが、キミ、と言う認識であってるのかな?」
「夜は私サ。全てを飲み込む無慈悲な暴食。夜から逃げる術はないヨ」
言い方からして……俺の想像通り、と言う事か。
なら、マータッド。
「俺から言わせたら……的が大きくなっただけだよ」
かえって好都合な展開だ。
マータッドが能力を発動して。俺が勝てる確率は五分だった。
けれど、相手がデカイのなら、それに越した事は無い。
俺は拳を振り下ろす。
何処でも無い、夜に向けて。その一撃は空ぶる。
「ッナン、だ、体、に、亀裂ッ!?」
マータッドが狼狽する。
それもそうだろう。
無敵だと思った能力に欠陥があるとも知らず。
いや、この場合は、相性が悪かった、とでも言うべきか。
どちらにしても。
俺の勝つ確率は大幅に上昇した。
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