第71話

「十分まで待たせてあげないんだからっ」


そう叫ぶと同時に、ゼシルが地面を滑走する。

俺たちから少しだけ離れて、スケートをする様に滑走して、そして俺たちに向けて足を振った。


「〈氷上躍る精霊の綺輝アイデアル・ダイアモンド〉」


爪先から伸びるのは……髪程に薄く伸びたゼシルの水銀。

それが鞭の様に……いや、ワイヤーカットの様に、糸の軌跡にある物質を切断していく。


地面や周囲の建物に切断面が迸る。目を凝らさないと見えない、それ程に薄いが、避け切れない程じゃない。


クインシーや草陰さんは攻撃を受ける寸前でチェーンソーと木刀を振り回して水銀の糸を切裂いている。

玄武さんは〈遅滞時計〉を使用する事で水銀が迫る寸前で時を遅くして攻撃を見切っていた。


「っ、やるじゃないッ」


「………打つ手ナシだね、ああも、攻撃を回避されちゃぁ………」


マータッドは溜息を吐いた。


「なによ、私はまだっ」


「キミの技、それが最後デショ?もう他に使える技ナイシ……」


「なんでバラすのよバカッ!!」


そう言ってゼシルが近くに居たマータッドを殴るが、マータッドは霧だ。その攻撃は効かない。


「このッバカッ!!」


「はいハイ………まだ五分くらいあるし、後はボクが引き受けるよ……流石に全員を相手に倒せるとは思っテ無いシネ……だから、ゼシル嬢。キミがするのは神の末裔を殺す事だけに専念スルんだ……元モト、それが本来の目的ダシネ」


そうだ。彼らの目的はあくまでも俺だ。

この試練は神の末裔同士の戦い、どれ程の末裔が生き残るかと言う話になる。

彼らが戦線を離脱する条件は一つだけ、俺を殺す事だ。

そして俺はこの場から逃げても良い。と言うかそっちの方が他の人に迷惑が掛からない。

……いや、もしも、万が一。草陰さんや玄武さんを人質に取られてしまったら……俺は降伏するしかないんじゃないのか?

……なら、やはり、戦う他ないのでは……。


「ソレじゃ……〈夜の王〉は夜の王らしく戦おうカナ……静寂に、淑やかに……ゆるりと、欠伸をして、ソシテ終わりを告げよウ……」


マータッドが手を伸ばしてこちらに向ける。そしてそのまま、人差し指を自らの唇に近づけると……。


「〈羊の時間スリヰプゴヲト〉」


どん、と、体が重たくなる。唐突な眠気が……俺を意識の奥へと引きずって来る。

これは……不味い、周囲を見渡す。玄武さんも……草陰さんも……膝を突いて、眠りに、就こうと……。


「夜を待つマでもナカったねェ、オヤスミ、神の末裔」


そうして、俺は、敵前を前に、眠りにつくのだった。



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