第70話

クインシーのチェーンソーが鳴り出す。

ヴヴヴと音を鳴らして、〈汞の王〉ゼシルに向けて振り降ろす。


「危ないじゃない」


そう軽口を叩いてゼシルの肉体が変貌する。

その体は鋼の液体だ、自在に肉体を変形させる事で攻撃を回避したり、捉えどころがないから、攻撃にも転じてしまう。


左肩から右腰に斜めに引かれたチェーンソーを、ゼシルは肉体を液体にして回避して、液体が針金の様に伸びてクインシーに向けて放たれる。


「止めろッ!」


アルターの能力によって停止、俺がクインシーの傍へと近づいてその体を針の先端から遠ざける。

時間が動き出すと同時にゼシルの背後に草陰さんが配置されていた。

どうやら玄武さんが止めた時間の中、草陰さんを動かしたらしい。


「えと、えぇと……サチ、ちゃん、あれ、炎っ!」


小春さんがサチに魔法を要請する。炎と言う言葉を聞いたサチが頷くと同時に両手を上げた。


「ハァ!!」


草陰さんが木刀を振り下ろす瞬間、ゼシルが更に体を変形させて木刀から逃れる。

スライムの様に形状を変化させて、後退する。


「今っ!サチちゃん、〈業火の一撃〉!」


サチの手から魔法陣が浮かび上がり、ゼシルの上にも魔法陣が浮かび上がる。


「業火……ちょ、それはダメッ!」


ゼシルが慌てる様に告げる。

その言葉に反応して、マータッドが体から黒い霧を発生、ゼシルと魔法陣の間に黒い霧を被せる。

その瞬間、放火される業火の一撃。覆う闇を焼き尽くす勢いで燃える炎が舞う。

しかし、闇は殻の様にゼシルを防御していた。


「ゼシル嬢、変わろうカ?」


にやにやとした声が響く、闇の殻を割って出てくるゼシルは髪を掻き揚げて叫ぶ。


「結構!私一人で十分ですもの、マータッド。貴方は私の援護に徹しなさい」


「マッタく、高飛車だネェ……これでも一応神の末裔って事なのかナ?」


軽口を叩くマータッド、彼は空を眺めていた。

夕方時から、次第に夜になりそうだった。

混沌とした世界に代わってから町の電気は通っていない。

夜中になれば確実に真っ暗な世界なってしまう。


「えと、〈夜の王〉の、能力が、来ます。夜になると、なりますっ!」


そう、小春さんが叫んだ。

そうか、〈夜の王〉は夜中に能力を発揮する特性を持つのか。


「あと十分、長引いたらボクが出るからネ?」


マータッドが空の具合を見てそう言った。


「十分以内です。それまでに倒します」


マータッドが能力を発動するのは危険だと思った。

だって、能力が限定されていると、その限定されている分、強力な能力が来てしまうと思ったから。

だから、残る十分で倒さなければならないっ。



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