第69話

「ゼシル嬢、ソロソロ夜だよ、ボクの時間ダ」


そうマータッドは嬉しそうな口調で言う。


「あら、貴方なんか居なくても私さえいれば完封出来るわ」


負けじとゼシルと呼ばれた少女は無い胸を張って言った。


「ちょっと待ってくれ。君たちは、神の末裔、なんだろう?」


俺は二人が攻撃に入らない様に質問で場を濁す。

二人が回答しなければ、意味の無い問答だが、ゼシルの方は乗り気だった。


「えぇ、私も、この煙も、同じ神の末裔よ?」


「煙ッテ……まあ、ある種ソウだけどネ」


「シュテイルに付いている……そうだろう?」


「えぇ、シュテイル側の人間よ」


ゼシルはそう断言した。

ならば、他の神候補を蹴落とす為に、あのゴッド・エンジェルクイーンの方へ向かっているのだろう。

しかし、何故。

神の末裔なのに、自分が神になれる可能性があるのに、何故、わざわざ神の座を捨てる様な真似をしたのか。


「私たちはこの世界に興味が無かった。だから新しい世界を目指す。他の神の末裔も、大方そんな理由でしょうね……だから、新世界において、一番マシな神は誰なのか……それがシュテイルだっただけ。彼は自分の意志で動く事の無い無能だから、他の神の末裔による多数決を以て選定している。民主主義、と言う奴かしら」


「自分に意志が無いって、それは唯の都合の良い人形じゃないか」


シュテイル・マッカンバール。

黄金の様な男。その実、自分の意志では無く、他人の意志を尊重する。

人としてならば、そんな生き方はありだと言えるだろう。

だが、そんな男が神になったら話は別だ。

神は頂点だ。その頂点は不動で、決して揺らぐことのない信念がある筈。

誰かの言葉に耳を傾けて、世界を動かす様な神は、俺は居てはならない、と思う。

だって、多数決で決めた結果が人を滅ぼす様な決断で、それをシュテイルは多数決だから仕方が無いと、自分の意志も無く人類を滅ぼすのだ。


「私は人形なんて思わないわ。彼は無能、だけれど、私たちは彼を信頼している。いえ……憧れているの。カリスマ、とでもいうのかしら。神の末裔において、もっとも神に近い存在が彼なの。だから彼が神であって欲しいと願っている。だから私たちは彼を神にする」


「偶像もまた信仰って所か……救いようがねぇな」


玄武さんが間を取ってはいって、そう呟いた。


「意志の無い神なんざ必要ねぇ。確固たる意志の無い神になんの価値があんだよ。指示待ち人間に誰が付いて行くかバカが、独裁でも支配でも、向かう先を決めて欲しいと思わせる様な神こそが神らしいだろうがよッ」


何もしない神よりも。

手を動かしている様な神が良い。

玄武さんはそう言った。


「つぅワケで、賛同出来ねぇよお前らの神なんて。クソくらえだ」


そう叫んで中指を突き立てる。

その行動が彼女たちの怒りを買ったらしい。

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