第68話
そして俺は判断を誤った。
既に神の試練と言うものは始まって居たのだ。
ならば、俺が行うべき行動は、逃げる事だった。
シュテイルの言葉から考えれば、分かる事だったのに。
何故、シュテイルやゴッド・エンジェルクイーン、そして俺以外の神の末裔が来なかったのか。
既に、結託していたのだ。シュテイルを含めた、神の末裔たちは。
〈楽園の箱庭〉から出てきた俺たちは、ダンジョンで充電しようとしていた。
そんな最中、硝子や崩れた建築物の欠片が散る道路から歩いてくる二名の姿を視認した。
「コンニチワ。神の末裔、挨拶、済んだヨネ?なら、死のうカ」
マータッド……シュテイルはそう呼んでいた。
近くに居た小春さんが、その黒い霧のマータッドを認識すると恐怖におびえた。
「職業……〈夜の王〉、これ、強い、です」
震えながらも、小春さんは〈万物の眼〉でそう答えてくれる。
「じきに夜、なります、そうなったら、夜、同化します。広範囲、普通の攻撃、効きません……けど……こっちは、問題じゃ、ないです」
クインシーがチェーンソーを構える。
玄武さんがポケットに手を入れて、〈遅滞時計〉を握り締めた。
そして草陰さんは、木刀を構えている。
「その隣……〈汞の王〉、です。こっち、やばいです……強い、です」
そして、その隣にいる、少女の姿を指差してそう言った。
藍色の髪をひざ元まで伸ばして、前腕、そして足の膝元が銀色の輝く少女。
「じゃあ、始めましょうか」
そう言うと同時、〈汞の王〉と呼ばれた少女は足を変幻させた。
水あめの様に、足は鋭い針に代わると、先端のみを液体の様にして高速滑走し出す。
「アルターッ!」
俺は叫び、時間停止能力を発動させる。
アルターの能力によって、一時的に時間は停止する。その停止世界に、その二人は動く事は出来ない。
「取り合えず迎撃してやるっ!」
玄武さんが突っ込んで飛ぶ。
二メートルほどの高さになる〈汞の王〉の腹部に向けて蹴りを放つが……。
「ッ!体が変わった!?」
〈汞の王〉の腹部、先ほど、玄武さんが蹴りを放った部分、其処には、大きな穴が開いていた。それはまるで水の様に滴りが出来ている。
「コイツ、全身が水なのかよッ!」
まさか物理攻撃が通用しないのか。
そうこうしている合間に時間は戻り出す。
攻撃を受けた筈の〈汞の王〉は一度だけ自身の腹部に目を向けたが構う事無く走り出す。
「墳ッ!!」
草陰さんが木刀を〈汞の王〉に向けて振り翳す。
その一撃を、〈汞の王〉は両手を盾の様に変形させて受け止めた。
「乱暴ね、女性の扱いがなってないわ」
後退りながら、〈汞の王〉はそう愚痴った。
「女性らしい扱いをしてほしければ可憐でいろ。戦士であるのあらば、まずは名を名乗れ、無礼者め」
木刀を肩に添えて、草陰さんは鼻を鳴らしながらそう告げた。
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