第60話

しばらくすると、ダンジョンが崩壊していく。

〈草陰ダンジョン〉のコア……ダンジョンボスを草陰さんが倒した様子だ。

崩れ出すダンジョンから、草陰さんが出てくる。先程みた時と同じ姿、その体に傷一つ付いていない。


「さて……小春、よく、生きてくれたな……」


草陰さんは小春さんの元へと近づくと、彼女の体を強く抱き締めた。

その姿は剣聖の姿じゃない。ただ、孫想いの優しいお爺ちゃんそのものだった。


「うん………お爺ちゃん、あのね、生きてくれて、ありがとう」


顔を埋めて、小春さんは涙を流している。

ようやく、いつも通りの、優しいお爺さんに出会えた事が嬉しいのだろう。


「それは……その言葉は、ワシの方よ。ありがとう。小春。ワシには守れぬものは無かった。お前が居てくれたから、ワシは再び守る事が出来る……誰一人、守れぬままの老いぼれになる所じゃった」


そうして二人は強く、強く、握り締める。

その光景を見るだけで心温まるが、その後の事は今はやめておいた方が良い。

此処はファンタジーの世界。こうして、俺たちを狙うモンスターが出てくる筈だ。

だから、こうして団らんするのならば、せめて安全な場所でした方が良い。


「取り合えず……クインシーの能力で〈楽園の箱庭〉でも使いましょう」


俺はクインシーに顔を向ける。

流石のクインシーも、空気を読んだ様子で素直に〈楽園の箱庭〉を使用してくれた。

そして、俺たちは一度〈楽園の箱庭〉へと向かおうとした時だった。

ポケットに入れていたスマホが振動しだす。

俺はポケットからスマホを取り出して内容を確認する。


「なんだ、一体……」


そのスマホの振動は俺だけじゃない。

玄武さんや小春さん、草陰さんも、スマホが振動していた。

そして俺たちは一斉にスマホを取り出す。


「………中継?」


それは、皆のスマホに入っている〈神に至る挑戦〉のライブ配信だった。

俺たちはそのアプリを起動して、その配信内容を確認すると。


「……え?」


其処に写る光景は、なんとも普通な状況だった。

神が死んでいる。覆面男が倒れている。

立ち上がっているのは、全身が黒に染まる、黒い霧の様な人型。

其処で〈GAMEOVER〉の文字が画面に出てくる。

神は消失して、砕けたスマホだけが置かれていた。


「……アー、ご愁傷サマ、前神サマ」


黒い霧の男はそう呟いて、画面に顔を向ける。

黒い霧の男、しかし、その頭部には眼球が三つ浮かんでいて、耳に当たる部分には剥き出しになった歯が両左右に浮いている。


「ソレデハ、ーエッ、私が新しい、神です。皆さま、ヨロシク」


男とも女ともとれる声で、その黒い霧の男は言うのだった。

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