第58話
………く、は。
「は、っはっ……はぁ~……」
き、キツイ戦いだった……。
本当に生きた心地がしなかった。
あんな相手、もう二度と、戦うのはゴメンだ。
「取り合えず……回復薬飲もうぜ……体、痛ェ」
そう玄武さんに言われて俺は頷く。
スマホを操作して、回復薬を押した。
薄緑色の液体が並々注がれた瓶の蓋を開けて、その中身を飲み干す。
自動再生のアビリティがあるけど、それは電力を消耗するからなるべく使いたくは無かった。
「くは……はぁ」
ミントを磨り潰して薬に混ぜた様な味が舌にこびり付く。
大量に唾が分泌されて、俺はその唾を吐き出した。
「………二人、玄武、と。遊飛、と、申したか」
ざざ、と草履が地面に擦れる音を響かせながら近づいてくる草陰さん。
そのまま俺たちの前に立つと、ゆっくりと頭を下げ出す。
「感謝する。今回の戦い、二人の力無くしてどうにかなるモノでは無かった。名前も知らず、素性すら知らず、老いぼれの為に力を貸してくれた事、有難く思う」
堅苦しく、礼儀正しく、草陰さんはそう言った。
それは剣士としての礼儀なのだろう。
俺もそれに倣う様に、頭を下げる。
「俺たちは別に、何もしてないっすよ。なあ、遊飛?」
「はい。……元はと言えば、俺たちは剣の王に追われてましたから。〈剣の王〉を倒すと言う点では利害の一致。こちらとしても剣の王討伐は願っても無い事です。逆に、感謝をするのはこちらですよ」
「そうかね……一応、ワシの孫も世話になったそうだが……其処は追々話を聞こう」
でも、まずは、と。
消滅して消えた剣の王の近くにからん、と置かれた木刀を握り締める。
「先に外へ出ていきなさい……ワシはまだ、やる事がある」
そう言って、ダンジョンの奥へと歩く草陰さん。
小春さんが、近づいて、何処へ行くのか草陰さんに目配りする。
「……二人の墓を建てなければ、魑魅魍魎が住む場所に墓など、建てれんだろう」
小春さんの両親が安らかに眠れる場所を作る為に。
草陰さんは、このダンジョンを破壊しようと考えている。
「……戻って、来る、よね?ね?お爺ちゃん……」
小春さんは心配そうにそう草陰さんに聞く。
心配するな、とそう言う代わりに、草陰さんは小春さんの頭に手を置いて撫でた。
「では、孫を頼む……なに、すぐに終わるさ」
それだけ告げて、草陰さんはダンジョンの奥へと潜んでいった。
俺たちは、草陰さんの言葉を信じる様に、早々とダンジョンから出ていく。
重苦しい息を吐いて外へと出る。綺麗とは言い難い灰色の空が俺たちを出迎えてくれた。
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