第51話

「旦那様ッ」


クインシーが前に出る。

チェーンソーを握り締めて、剣の王に立ち向かう。


『さあ、三度見せてみよ』


レイピアが変わる。細く短いナイフへと換装される。

クインシーに向けて振われるナイフは、しかしクインシー本人を傷つける様な真似はしない。


距離……いや、『空間』だ、ナイフが振るわれると、クインシーは消えて、剣の王が突進する。

剣の王が通り過ぎた時に、消えた筈のクインシーが現れた。

『空間』を切断して、再び張り付けた。なんて、デタラメなんだ。


「〈アーマード・オフ〉ッ!」


アビリティを発動。

俺の耐久性を極限にまで落とす代わりに俊敏性を上昇させる。

しかしそれは付け焼刃。剣の王・バルゼの攻撃を避け切れるかどうか。

バルゼが鉈の様な剣を此方へと向けた。人体を細切れにする能力を持つ剣が向けられて、今振われようとする。


「くッ」


俺は後退する、だが、後退した所で能力を防ぐ手立てはない。

アルターの能力で時間停止を行うが、ナイフが換装されて曲刀に変更された。

そして『時間停止』を切断される。打つ手がない。この回避に専念するしか―――。


「〈催眠の魔眼ヒプノシスホリック〉……眠っちゃえっ!」


どん、と重圧な甲冑が地面に沈む。

重力操作か?いや、違う。バルゼは活動を停止している。耳を澄ませば寝息を立てている。


「ふふーんっ!ネルだってやっちゃうもんねー!」


イアネルの能力か。これは。

血と夢を司る吸血淫魔。相手を睡眠状態に引き落とす事が可能なのか。


「だーりんっはい、〈潮流血騒エナジー・ドーピング〉」


今回は時間が無い為か、爪による身体能力上昇が行われる。

〈アーマード・オフ〉の無駄撃ちをしたが、なんとかバルゼを止める事が出来た。


『……あぁ、良く寝た』


そして、そう呟いて立ち上がるバルゼ。

睡眠状態から完全に覚醒して、突いていた膝を上げて立ち上がる。


「うそっ、催眠は、相手の疲労度が高い程効きやすいのにっ!」


その説明からしてバルゼの疲労度は蓄積されまくっていたのだろう。

しかし、その催眠による眠りが醒めてしまった今、彼の疲労は消えている可能性がある。

敵に塩を送るとはこの事かっ!

身体能力を向上させた、更にダメ押しで〈アーマード・オフ〉を行う。

これで逃げ切れないならもうどうしようもない。


「っ、消えた」


だが、剣の王バルゼは再び武器を換装して振った。

それはステーキを斬る様なナイフだった。

そのナイフを俺に向けて振ると、俺の体は重たくなった。

いや、身体能力の強化が切れてしまったのだ。……違う。

『強化』を斬られてしまった。クソ、実力の差を埋める事すら許されないのかっ!

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