第50話

まず最初に距離を取る。

なるべく剣の王から遠ざかり、遠方から攻撃を仕掛ける。

職業・契約者は近距離戦には不向き。中距離から召喚獣を召喚して命令を下す。


「突進ゴブリンッ!」


肩に鋼の棘を付けたゴブリンが出てくると、剣の王に向けて走り出す。

先に接近した草陰のお爺さんが木刀を振り落とす。それに合わせるかの様にバルゼはレイピアを構えて攻撃を受ける。

剣の王の真横からタックルを行おうとするゴブリン。

俺は更に立て続けに〈灰色群狼〉を召喚。

灰色群狼は十から二十程の狼の群を召喚する。

その合間に剣の王がゴブリンに見向きもせずに大剣を振った。

それだけでゴブリンは数十体のブロック状となって崩れ落ちる。


「っ」


なんだ、あの剣は、レイピアは初めて出会った時に見たモノと同じ。

だけど、あの大剣はまったく違う代物に代わっている。

太く長く、二メートル以上もあった大剣は、鉈の様に分厚い大剣となっている。

あれは技術じゃないのか……もしや剣が変わると能力も変わるのか?

大剣が草陰のお爺さんに向けられる。するとお爺さんはその剣の効力を理解しているのだろう。その場から即座に退避した。


「遊飛ィ!!」


〈楽園の箱庭〉から飛び出る玄武さんが叫ぶ。

同時にクインシー、イアネルも飛び出てきた。


「玄武さんッ!一度時を止めますッ!アルターッ!!」


俺は〈時の歯車〉アルターを呼び出す。

そしてアルターの背中の歯車が回り出すと、時間停止能力を発動する。


「〈そして残るはロスト・ワン―――」


瞬間。〈剣の王〉バルゼの大剣が切り替わった。

今度は三日月を連想させる曲刀へと変貌する。

そしてバルゼはその曲刀を、俺が能力を発揮すると同時に振り翳した。


「―――一つのみリザルト〉ッ!?」


時間停止能力が発動しない!?

……ッいや、想定していたさ。

『距離』を斬るくらいだ。『時間停止』……いや、『能力』を斬るなんてワケないだろう。

ならばこそ、手詰まり……と言うワケでも無いらしい。


「玄武さん。アレは見ての通りです、概念を斬る。けれど、その発動を行うには剣を振う必要がある様です」


俺が見る中では、概念を切り捨てる際には必ず剣を振っていた。

当たり前だろうと思うだろう。しかし概念を否定する発動条件を理解出来ている事が重要なのだ。


「剣を振るタイミング、それを合わせれば、概念を斬られる事は無いです」


その剣を振るタイミングさえ分かれば、『時間停止』も可能になるかも知れない。

つまりチャンスを作る事が出来る。


『――――嗚呼、珍しい曲芸だ、良い、定める敵を変えよう』


……っ。

剣の王が、俺に顔を向ける。

錆びた甲冑ではその顔は分からない。

けれど、何処か揚々としている様だと理解出来た。

駆ける、剣の王が俺に向けて、刃を向けてきた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る