第48話
「お爺ちゃん、私だけ、生きてるの知りません。お爺ちゃんは〈剣の王〉に、全員殺されたと思って、そして、殺す為に、生きてます……多分」
小春さんはそう言って顔を埋めた。
自分が殺された時の事をフラッシュバックしているのか、それとも、家族を殺された事に対して嫌な記憶でも蘇っているのか。
「……じゃあ、なんだ?〈剣の王〉は俺たちを追っていて、お爺ちゃんは〈剣の王〉を追ってるのか?……こういうの、言いたくはないけどよ……」
そう、多分おじいさんは死んでいる、かもしれない。
如何に剣聖であろうとも、状況が悪ければ、一つの過ちで死に繋がってしまう。
「……あ、でも。安否は分かるかも、知れないですね」
俺はガチャアイテムを操作する。そして、目の前に居る彼女にパーティ申請を行った。
「共有パーティ専用のアイテム欄にそれを置きましたんで、それを使って確かめてみましょう」
アビリティ〈シーカー・チューナー〉。
特定の人間を探索し、テレビ中継をする様にその存在を確認する事が出来るアビリティ。
小春さんはおじいさんの安否を確認する為に、パーティ申請を受け取ると、そのアビリティを装備する。
「使い方……えぇと、これで、こうすれば……」
彼女の眼に魔法陣が浮かび上がる。〈万物の眼〉でそのアビリティ能力を細かく理解していた。
そして手を翳す、すると空間にウィンドウが現れると、画面に砂嵐が巻き起こった。
「……あ、写った」
そして……其処に居たのは黒い血飛沫を纏う一匹の老獅子だった。
手には木刀を握り締めて、目前に迫る鬼型のモンスターを一撃で撲殺する。
目の前に広がるのは鬼型モンスターの群れで、本来ならば避けて通ろうと思える筈なのに、その老いた獅子は木刀を爪牙として振い一撃で殴り殺していく。
その様は圧巻だった。だって、お爺さんは傷一つ付いていない。相手の攻撃を受けたり避けたりして、木刀を器用に使って殺していくのだ。
強い。
まさか、本当に。こんなお爺さんが存在するだなんて。
「マジかよ……おいおい、あれ、見てみろよ」
そうして、玄武さんは画面の先を指差した。
鬼型モンスターの先に立つは、西洋の甲冑を着込む気高き騎士。
あれは紛れも無い〈剣の王〉であり、そして良く見てみれば……今、彼らが戦おうとしているのは、この〈草陰ダンジョン〉内部だった。
バルゼ、あれはどうやらこのダンジョンまで追ってきたらしい。
「おじいちゃんっ!」
小春さんが叫んだ。
お爺ちゃんのいる場所へと向かおうと走り出して、足を絡めて転んでしまう。
「う、うーっ……ひぐっ、おじ、おじいちゃんっ!!」
涙を浮かべて、痛みを我慢しながらも、小春さんはおじいさんの元へ向かおうとしていた。
「……遊飛、どうする?あの爺さん、中々やるけどよ……逃げるんなら、今だ」
玄武さんはそう俺に語り掛けてくる。
「……じゃあ、逃げますか?玄武さん。この状況で」
あえて、俺は玄武さんにそう聞き返した。
それを聞いた玄武さんは、ハッ、と鼻で笑うと。
「逃げるワケねぇだろ。逃げた所で、これから先、あんな馬鹿みたいに強い奴と出会う可能性があるんだ。倒して、そんで、強くならなきゃ、この世界に適応出来ねぇ、そうだろ?」
逃げる事は大事だ。
しかし、それでも。
逃げ続ける事は出来ない。
何れは、その逃避行に終わりが訪れる。
俺は目標を思い出す。
……あの神、覆面男を倒す。
その為に強くなる。そう決めた筈だ。
「例え逃げる選択をしても、どのみちアレとは戦わなければならないですからね」
俺は画面中継を見る。その迷路には見覚えがあった。
一本道、出口と繋がる道、俺たちが一度通った場所。
〈剣の王〉バルゼは確実に俺たちの方へ向かっていたのだ。
だからバルゼから逃げるとなれば、一本道を通らなければならない。
複雑に絡まる迷路の中だと言うのに、迷う事無くこの道を選ぶとは。
やはり、的確に、俺たちの居場所を感知しているらしい。
逃げ道は無くなった、後は進むしかなかった。
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