第47話

早速俺はテキストの内容を確認する。

『嘗て全能神の片鱗に触れた大魔法使い

全ての魔法を習得すると共に

全ての魔法の使い方を忘却してしまった

神が培う全ての能力は人の身には余るモノ

全知を得たが故に精神は崩壊し

全能、故に大魔法使い。

それは無垢なる凶器』


………つまり内容から察するに、彼女は全部の魔法を扱う事が出来る?

……けど、それを忘れてしまったから、使う事が出来ない。

だから無知全能……と言う事か?

じゃあ、彼女はただの一般人と同じ存在?


「……あぁ」


終わった……これでは、どうやっても〈剣の王〉に勝てるビジョンが思い浮かばない。

サチは嬉しそうに、クインシーの胸を頬ずりしていた。

母性が目覚めているかの様に、クインシーはサチの行動を暖かく見守っている。


「俺もガチャしてぇけど……引ける程無いんだよな……」


玄武さんは召晶石が入る度に引いてるから蓄えがない。

だからもう、〈剣の王〉に勝てる見込みが無かった。


「えと……あの………」


と。

俺たちの会話に入って来たのは、小春さんだった。

小春さんはどうやらタイミングをうかがっていたらしく、俺たちが完全に沈黙した瞬間を狙って口を開く。


「私の……お爺ちゃん、居たら……多分、勝てます」


「また爺ちゃんかよ……いいよそういうのは」


玄武さんは小春さんの話を聞く気は無さそうだが、俺は取り合えず、彼女の話を聞いてみる事にした。


「どうして勝てるんですか?」


「えと……お爺ちゃん、剣聖です」


……剣聖って、職業、が?


「お爺ちゃん、剣聖、で。それで……〈剣の王〉を、追ってます。凄い、勢いで」


「え、ちょ、ちょっと待って、何、一体、どういう話?」


「……私、お母さん、お父さん、〈剣の王〉に殺されました。そして、お爺ちゃんは、〈剣の王〉を殺す為に、何度も、攻撃、してた……だから」


……殺された?あれ、その言い方だと、少しおかしいんじゃないか?

言い間違えたのか、それは。


「う……うーっ……それ、それで……お爺ちゃん、援護すれば、勝てます……うーっ……」


涙を浮かべて、小春さんが言う。

俺はその前に、疑問を抱いた事を、小春さんに聞いてみた。


「ちょっと待って下さい。多分、言い間違えかと思いますけど……殺されたんですか?ご家族、そして……貴方も」


彼女の言葉が間違いでなければ。

小春さんも、殺されたと言う事になる。

俺の言葉に彼女は頷いて、シャツのボタンを外して徐に胸を此方に見せてきた。

その突発的な行動にしかし、俺はそうかと思わざるを得なかった。

彼女の胸元には……赤い痣が出来ている。その痣は、まるで心臓を突き刺した剣の刺し痕の様だった。


「お母さんのアイテムで、生き返りました……私、一度、殺されてます」


草陰小春は一度死んで、生き返った。

そう彼女は言っていた。

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