第39話
そう考えていた矢先だった。
甲高い、鋼を打ち付ける様な音が、響き出して、俺たちは外へ出る。
それが、なんとも、バカな行動であるとも知らずに。
ただ慢心していた、時を止める事が出来る。あらゆるものを切り裂く事が出来る。
レアリティが虹に該当するキャラが居る。それが慢心だった。
外へ出た俺たちは上を眺めた。
都市部から離れたエアライン付近は、それでも多くのビルが並んでいる。
そのビルの一つに、彼女の姿はあった。
「おいでなすったってワケか」
獣の皮で出来た蓑を陰部や胸部、そして両眼を封じる様に覆う、灰色の長髪を靡かせた女性の姿。特徴通り、頭部からは犬の様な耳が生えて、自分の背丈よりも高い、弓を握り締めている。
彼女が撃ち込んだであろう矢を握り締めて、ビルの頂上から黄昏る様に下を見下ろしている。
「少し遠いですね。時を止めて接近しましょうか」
ビルの中に入り、屋上へと上がって接近戦に持ち込もうと提案した時だった。
彼女、メルシアがビルから降りてくる。意識を落として頭から落下する様に、地面へと目指した。そして……彼女の右半分が、そのまま地面へとぼとり、と投身した。
「え?……え?」
残る左半身は、未だ屋上に立っているが、事切れたかの様に、屋上の方へ体を傾けて……そして、俺たちの前から消え失せた。
一体、あれは……あれが、彼女の能力みたいな、ものなのだろうか?
そう考えたが、違った。彼女は殺された。倒されたのだ。
一体、誰に?どうやって、倒された?
頭の中で巡る思考に、答えを出すかのように、それは出現した。
カツカツと、鋼を地面に打ち付ける様な音で、屋上を歩いて、こちらへと顔を出してくる。錆びた甲冑を着込む騎士。
その手には二メートルを超える刀身の剣が握られて、もう片方の腕には、レイピアの様に細い針の様な剣を逆手で握っている。
一目見た瞬間。それが、絶対的強者の雰囲気を纏っているのが理解出来た。
多分、事前情報が無くても、その雰囲気だけで、それが何者であるのか。
俺は自然と、理解してしまった。
あれは――――〈剣の王〉バルゼ。
何故ここに、どうして、メルシアを討った?なんて事は考えない。
バルゼは、俺たちに向けて剣を向けていた。
『珍しい剣に参ったが……誠、珍しい曲芸を扱うな。面白い、是非とも、死合おうか』
その言葉一つで自分が死ぬ事を理解した。
玄武さんも、その言葉でヤバイ奴だと理解したらしい。
「旦那様」
背後に居たクインシーが呟く。
俺は振り向く事無く、クインシーに耳を傾けた。
「アレとは絶対に戦ってはなりません」
……クインシーですらも。
あの〈剣の王〉バルゼの異質さを理解出来ている。
そして、彼女がその言葉を吐く程に、俺はバルゼの強さを再三確認してしまった。
戦って勝てる相手じゃない。あれは。
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