第38話


「見えましたか、玄武さん」


近くに突き刺さる矢を見て、俺は玄武さんにそう聞いた。


「旦那様、敵襲ですか」


「うわぁ……もうネル寝ようと思ってたのにぃ!」


「方角からしてエアラインの先……ありゃ西の地に続く場所だな」


玄武さんはそう冷静に判断してくれる。

エアラインの先に、恐らくアレが居るのだろう。

〈星の狩人〉メルシア。


「どうしますか?このまま強行突破でも?」


「あぁ。それで行けるな。さっきはお前が時を止めてくれたから避けれたが……〈潮流血騒エナジードーピング〉ぶち込んだ状態だったら避けれる。あれがアイツの本気なら、簡単にヤれるぜ」


そう玄武さんは判断した。

ならば、俺は近くに居たイアネルを呼んだ。


「頼むよ、イアネル」


「えぇ~いいのぉ~?でもぉ……クインシーがぁ~」


「いいよね?クインシー?」


俺はクインシーに許可を取る為に彼女の顔を見た。

クインシーはチェーンソーを取り出して、エンジンを吹かせている。


「……旦那様の生存確率が上がるのならば……ぐっ」


彼女は悔しそうに唇を噛んでいた。

余程、俺の傍に女が近づくのが嫌なのだろう。

しかし、状況が状況だ。

彼女も、俺が死んで欲しく無いのだろう。

死んでしまうくらいならば、多少他の女が近づいても、目を瞑る様子だ。


「じゃぁ行くねぇ~かぷっ」


そうして、イアネルが俺の首筋に歯を立てる。

彼女の能力によって、〈潮流血騒エナジードーピング〉が発動する。


「遊飛、準備は良いか?」


「はい、俺は大丈夫です。クインシー、イアネル。二人は?」


「いつでも、旦那様」


「はーい、準備オッケー!」


これで、この大橋、エアラインを進む準備が出来た。


「それじゃあ………行こうか」


俺はもしもの為にアルターを呼び出す。

不測の事態が起きても、アルターで時を止める事が出来る。

そして、完全に準備が整った時、俺たちはエアラインを超える事にした。

空を眺めて、注意を払って。

俺たちは進んで、エアラインを通る。

そして……ある種の不測の事態が起きていた。

空から飛んでくる矢が、エアラインを超える間、一矢も来なかったのだ。


「………何で来ない?」


玄武さんが訝し気に呟く。

エアラインをあっさりと抜けた俺たちは、一応、近くのコンビニエンスストアに入った。

硝子が四散した店の中は、破れたビニール包装や、その中に入っていた食べ物が腐敗していて、鼻が捥げそうな異様な匂いを放っている。


「あれはもしかして、威嚇射撃だった、とか?」


「それなら俺らにドンピシャで狙うような撃ち方はしない筈だ」


確かに、俺は頷いた。

ならば……何故、メルシアは、一撃で済ませたのか。

いや……そもそも、その矢はメルシアのものだったのだろうか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る