第37話

「ふぁ……ん」


欠伸をしながら、車を発進させる玄武さん。

俺はその隣で玄武さんの眠気を紛らわす為に話し相手になっていた。


「そろそろ夜ですね」


あぁ、と頷く玄武さん。背後にはクインシーやイアネルが無言のままこちらを眺めている。


「んんん~……早く夜にならないかなぁ~」


イアネルは眠る時を楽しみにしている様子だ。

それを聞いたクインシーも頷いて俺と一緒に眠る時を楽しみにしていた。


「目的地まで後三時間、って所ですか?」


「あ~……そうだなぁ。普通に交通設備がなんとかなってりゃ、一時間半もありゃ到着するんだけどな」


そう言って、玄武さんがチッ、と舌打ちした。目の前には車が事故を起こしていて、道路を塞いでいる。

混乱が生じたこの世界で、整備された道路で移動するとなれば、当然ながら車が道を塞いでいる。

こういう時は戻って別の道を探すか、車を強制的に退かす他無い。


「悪い遊飛、それと新妻さん。退かしてくれ」


そう玄武さんに言われて俺はシートベルトを外す。

同時にクインシーも車から降りて、俺たちは車を退かす作業に入る。


「アルター」


名前を口にする。俺の背後に機械で出来た召喚獣が出てくると、車を押して道を開く。

クインシーもチェーンソーを持って、それで車を弾き飛ばしていた。


「よーし、進むぞ~」


再び車に戻り、俺たちは走り出す。

暫く走行して、一本の橋が見えた。

海峡から大地を結ぶ一本の大橋。

テレビでも一度、その大橋の特集で見た事がある。


「エアラインだ」


正式名称は忘れたが、テレビではその大橋をエアラインと呼んでいた。

随分と前に大橋が地震によって倒壊した時、数年を掛けて新しく建築したのがこの大橋エアラインだ。


「……あ~やっぱなぁ」


エアライン前には、多くの車が止まっていた。

多分、混乱した時に車を捨てて逃げたのだろう。

更に西の地へ行こうとする人がこのエアラインの車の渋滞を見て、徒歩で向かう為に車を捨てたらしい。エアライン前には、多くの車が止まっていた。


「こっからは歩きだなぁ……面倒臭ェな。おい嬢ちゃん。あれ、ドーピングしてくれよ」


「うん。徒歩である以上。それが一番早いかもね」


俺たちはイアネルの方に顔を向ける。

仕方ないなぁ~とイアネルは玄武さんに爪で〈潮流血騒エナジー・ドーピング〉を行い、俺には首筋に直接流し込もうとして、クインシーにその首根っこを掴まれた。


「何故旦那様に口づけを?」


「口づけじゃないもん、首筋に歯を立てるだけだもん」


「誰の断りを得てその様な真似を?」


「だーりん」


「私のダーリンです」


そう喧嘩をしている。

俺は苦笑しながら二人を止めに入ろうとして。


「ん?………流れ星か?」


玄武さんがそう言って俺は振り向く。

流れ星?あぁ、確かに。こちらへと向かって来る光がある。

……

それを理解すると同時に俺は即座にアルターを呼び出す。


「時を止めろッ!」


叫ぶと同時にアルターが時間停止を行った。

静止された世界で、俺と〈時空者〉の玄武さんだけが動ける。


「玄武さん、これ、矢だ」


此方へと迫るモノの正体は矢だった。

そしてそれは恐らく……〈星の狩人〉メルシアのものだろう。

俺はイアネルとクインシーを連れてその場から離れる。玄武さんも周囲に注目しながらその場を離れ出す。


「何処から打って来やがった……」


矢の位置からして、殆ど真上から降り注ぐように落ちている。

しかしその矢の方向からして、エアラインを超えた先の都市、から来ているのか?

そう結論づいた所で時は動き出し……矢が車を貫いた。


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