第36話

「うぉ、冷てぇな」


近くの公園で俺たちは水浴びをしていた。

少し寒い季節、外で水浴びは冷たい風も相まって凍える様な寒さだった。

近くのドラッグストアで入手したシャンプーなどで髪を洗う俺たちは冷たい冷たいと呟きながら髪を洗う。


「あと五十キロか……一日中走ったら何とかなるな」


玄武さんが髪を洗いながらスマホを見ている。

黒髪天然パーマが関係しているのか分からないが、玄武さんの頭に泡立つシャンプーは纏まっていてアフロみたいになっている。


「玄武さん。チャットですか?」


「あぁ、〈星の狩人〉の追加情報が無いか調べてる」


俺たちが西の地へ出向いたのは、玄武さんがチャットで〈星の狩人〉メルシアの情報を入手していた為だ。


情報によれば、メルシアは犬耳を生やした女性であるらしく、灰色の髪を腰元まで伸ばした、陰部と胸部と両目を皮で隠す、見た限りでは原始人の様な姿らしい。

その手には大きな弓を持ち、放てば星を落とす勢いで疾走し獲物を射るのだ。


「……まあ、更新は三日くらいで止まってるな」


「………特定の場所を拠点にする様子じゃなさそうですね」


西の地へと向かい、そして其処に〈星の狩人〉が居なければ完全に無駄足だ。

出来る限り、最新の情報を取り入れたい所だった。


「まあ、行ってみないと分からないだろうし……ふっ」


ん?なんだろうか、急に笑ったりして。

俺はリンスーを流して、玄武さんの方を見た。


「ん?あぁ、チャットでさ。お爺ちゃんを探してますって奴があってよ」


お爺ちゃん?捜索系のチャットフロアでもあるのだろうか。


「お爺ちゃんが失踪して、そのお孫さんが探してるらしくてな。そのお爺ちゃんの特徴を聞いてみると、コレがかなりのハイスペックでよ」


ハイスペック……一体どんな風にハイスペックなんだろうか。

続きを聞こうとする前に、玄武さんは思い切り自分の髪を冷たい水で流した。


「ぎひぃ……フリーターでもこれは堪えるぜ……んで、そのお爺ちゃんな、迫り来るモンスターを木刀でぶっ倒してんだとよ。しかも無傷で、何の能力も無い無課金戦士。百メートル八秒のスピードで駆けて出て行ったから何処に行ったか分からないらしいぜ?」


……それは、ハイスペックと言えばハイスペックだけど。

……どちらかと言えば釣りっぽく聞こえてしまう。


「だよなぁ。ガチャ引いてない部分から嘘っぽく感じて、百メートル時点でもう嘘だよな。まだモンスター無傷で倒した部分の方が本当っぽいぜ」


ぶんぶんと髪を振って玄武さんは近くに置いたタオルを手にする。

それを俺に向けて投げ渡して、俺はそれを手に入れると、そのまま頭を拭いた。


「にしても、あの新妻らは羨ましいわ。俺たち人間は汗掻いたりして汚れるのによ。あいつらそういうの掻かないから綺麗なままなんだろ?」


「えっと、はい。まあ、それでもお風呂自体には入りたかった様子ですけど」


クインシーは俺と一緒にお風呂に入って色々な所を洗いたいと言っていた。

『旦那様の体を私の体で洗いたい』なんて。

泡だらけの彼女が、そのまま俺の体に体を擦り付ける様を思い浮かべてしまう。


「うっし……明日は西の地だ。頑張ろうぜ」


「……あ、はい」


折角玄武さんが頑張ろうと言ったのに、俺は聞き流してしまった。

妄想も程ほどにしなければ、いつ死ぬかも分からない身なのだから。

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