第33話

「んふふ~やぁ~っと寝たぁ~」


甘ったるい声が聞こえた。

ここは夢の中だ、確かにそう理解出来る。

けれど違和感。夢の中であると言うのに、何故か醒めている様な感覚。

これは……あれだ、夢だと理解した時に、動ける奴。

名前は……えっと、忘れたけど。確か、その感覚に似ている。


「だーりんっ!おっはよ~!!」


そして、俺の背後に飛び込んでくる柔らかな感触。

これは、いつも俺の体を抱き締めてくるイアネルだ。


「イアネル?これ、夢じゃないのか?」


頬ずりをしてくる彼女にそう聞いた。

イアネルはにしし、と笑っていた、何が嬉しいのだろうか。


「ネルは吸血鬼とサキュバスのハーフだもん、夢の中を自在に操るなんてらくしょーだもんねっ」


……そう言えば、テキストはそういうふうに書かれていたっけ。

内容は良く見てないけど、イアネルは夢を操る能力にも長けているのか。


「それよりぃ~……ちゅっ」


っ……頬にキスされた。

俺はイアネルの方に顔を向けると、八重歯が可愛らしいイアネルの顔が其処にあった。

そしてイアネルは戸惑う様子も無く、俺にゆっくりと顔を近づけて……そして俺の唇を奪う。


「んぐっ!」


「はむ……ぇあ……ちゅ……ちゅっ」


ヤバイ、抵抗しなければ。こんな所、クインシーに見られたら殺される。

そう思ったが、彼女を振りほどく為の腕が動かない。逃げ出す為の足が、自由に効かない。

これは一体どういう事なのだろうか。分からない。混乱する。そして気が付く。


ここは夢の中だ。イアネルが自由に動かす事が出来ると言うのならば、俺の体が動かない様に操作しているのだ。


「流石に夢の中ならクインシーは来ないから、好き放題出来るねぇ~」


「好き放題って………って、何、服をッ」


イアネルは俺が動けない事を良い事に、俺の服を脱がしていく。

それに伴い、イアネルも自らの服を脱ぎ出していた。


「え?だって、ネル、お腹空いたから、食べちゃおうと思って」


「食べるって何を!?」


いや、そんな事聞かなくても分かっている。

イアネルは吸血鬼でもあり淫魔だ、彼女がする事があるとすれば。


「クインシーだけ、ダーリンの寵愛もらってズルいしぃ~、夢の中くらいならぁ良いでしょ~?」


「えっと、でも、なんだかそれって……ダメなんじゃ」


心臓が高鳴る。

彼女の下着姿は幼い体でありながら女性としての蕾が膨らんでいる。


「ふぅん……夢なのに、不貞はしたくないの?」


「でも、俺 、そういうのした事ないし……と言うか、クインシーにだって、そう言う事は考えてないのにっ!」


誠実で居たい。そう思う気持ちもある。

同時に男性として体験したいと思う事もあるが。

それで自分が後ろめたい気分に陥るのは嫌だ。


「だからやめてくれっ」


「大丈夫大丈夫……夢の中だから、ネルが操作して、夢の中の事、現実では思い出させない様にしてあげるからぁ……」


だから、と、付け加えて。

イアネルは自らの髪を束ねた紐を解いて、俺に近づき。


「浮気えっちしよぅね?」


その言葉から先は、覚えて無い。

と言うか、俺は、夢を見ていた筈なのに。

その内容を、思い出す事無く、目が覚めるのだった。




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