第32話
そして、ある程度の話を行い、今後の目標も立てた所でお開きになった。
玄武さんが回復する為に〈楽園の箱庭〉を使用しているから、俺たちは外で適当に休む事にした。
と言っても、こんな世界に変貌したから休む場所は機能していないに等しい。
ホテルや旅館と言った施設も恐らく、人が居ないか混雑しているか。
しかしどの様な状態でも、俺たちが居る場所には、そんな施設は無かった。
ならば民家にお邪魔する、と言う選択肢もあった。混乱によって家を空けている事もあるだろう。しかし、もしも人が居たらトラブルは免れないだろうし、何よりも誰かに家に上がり込むなんて気にはなれなかった。
「あ、クインシー。此処空いてる」
だから俺は、道路に捨てられた車の中で休む事にする。
コンビニやお店を利用する事も考えたが、其処に人が居た場合、無用なトラブルが起こる可能性がある。
だから、こうして、確実に誰も居ないであろう車の中が一番都合が良い。
鍵を掛ける事も出来るし、いざとなれば車で逃げる事も出来る。
幸いにも、この車には鍵が差し込まれたままだった。
俺とクインシーは一緒に車に入って助手席の背凭れを下げて横になる。
「失礼します」
そう言ってクインシーが俺の座る椅子に近づいて、俺の体を抱き締めた。
どうやらこの狭い車の中で、更に狭い座席に二人一緒になろうとしたらしい。
彼女が強く俺の体を抱き締めて、顔を俺の髪に埋める。同時に、俺の顔も、彼女の胸に顔を埋める様になった。
やはり、何処か安堵する匂いが鼻孔の奥を突く。
最早、この匂いが故郷の様な感覚で、俺が居た家の部屋は、もう忘れかけていた。
「今日も一日お疲れ様でした。このまま、私の腕の中でお休み下さい……」
俺は彼女の言葉の通り、目を閉じてゆっくりと呼吸をする。
とくん、とくん、と彼女の心音が静寂の中聞こえてきた。
彼女の体は柔らかい。こうして抱き締めているからこそ分かる事で、顔を挙げると、俺をジィっと見つめるクインシーの黒い瞳があった。
「おやすみなさいませ、旦那様」
そう告げると、クインシーは俺の額にキスをした。
それで終わりかと思ったが、今度は俺の頬にキスをして、そのまま唇へと動いていく。
「ん……っちゅ、ぇろ……」
そうしてクインシーは貪る様に俺の咥内を犯す。
どうやら彼女はキスが好きらしい。それが彼女の愛情表現だった。
俺も、彼女のキスは刺激的で、自然とそれを受け入れる様になる。
あぁ……なんだか、心地が良くて……眠気が……。
………気が付いた時、俺は、眠り、夢の中で目が覚めた。
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