第31話

会話も殆ど少なくなった時。

俺は玄武さんに聞く事にした。


「玄武さん。怪我が治ったら、何かする事はありますか?」


そう聞くと、玄武さんは寝転がって空を見た。

この〈楽園の箱庭〉では、空は現実とは違う青と紫の綾模様。

呆然と見続ける玄武さんは何を考えているのだろうか。


「………そうだな、俺はもう、生きる意味も無ぇしな。捨て身で、神に特攻するのも良いかもな」


そう、玄武さんは答えた。

それは確かな自殺行為だ。

だって、玄武さんは誰かが居ないとその効果を発揮しない〈如何に道化師は狂ったかラフィン・ラフ・クラウン〉を持っている。


「あの……これは、お願いなんですけど」


俺はスマホを操作して、玄武さんのスマホに通知を入れる。


「………パーティ申請?」


「はい……俺は神を倒す、と言う事を考えてました。けど、それはなんとなくで、何時戦うか、その為に何をするか、それは考えていませんでした」


やはり、死ぬのは怖い。

俺が今回、感じたのはそれだ。

俺は出来る限り、そんな恐怖を取り除きたいと思う。

ならば、どうすればその恐怖を取り除けるか。

この世界に適応するか。

この世界を変えるか。

適応するのならば、俺はこの世界で安全に過ごす為の装備を揃えなければならない。

より良い装備を手に入れて、モンスターを倒して、報酬を貰って……そうして強くなれば、安全と同時に心の安寧を得る事が出来る。

けれど、やっぱり、このファンタジー世界をどうにかする為には、あの覆面男、神を倒す他ない。


「だから目標を立てました。神に挑むためには虹色レアリティの武装甲や召喚獣が必要です。その為に俺はクエストボードに書かれたモンスターを退治します。しかし、それでは俺一人じゃ難しい」


だから、仲間が必要だ。

モンスターを倒す為に、生存確率を上げる為に。

共に倒す仲間が。


「これは契約です。……今、俺にあるこの上位職業〈時空者〉と武装甲〈遅滞時計アウタータイム〉を譲渡する代わりに、俺と一緒に戦って下さい」


覆面男を倒す為には、まずは自身を強化しなければならない。

そしてそれは並みのガチャアイテムではダメだ。虹色以上のアイテムが必要で、それを得る為にはやはり、人手が必要になるから。

だから、玄武さんが居てくれたら、心強いと思う。


「……いいのか?俺は………フリーターだぞ?」


「そんな思いつめた様に言わないで下さいよ」


「はっ……まあお前が良いって言うなら良いけどよ。……その後ろに居る新妻さんを何とかしてくれ」


そう言われて後ろを振り向く。

其処には黒いオーラを醸し出すクインシーの姿があった。


「クインシー?」


「………旦那様。まさか男色の気があったのですか?」


「え?違うけど……玄武さんが付いてくるの嫌なの?」


「だって……私より楽しそうに話すじゃないですか……」


いや、それは、女性と話す時と男性と話す時は別モノだろうに。

と言うか玄武さんに嫉妬しないでよ。


「雄よりも私の方が良いに決まってるのに……私は旦那様に快楽を与える事も出来る。繁殖目的ならば私の体の方が適しているのに……なのにそれだけではダメなのですか?私には足りないと言うのですか、私では旦那様を悦ばせられないと言うのですか?そんな私は旦那様にとって不要な存在?私は旦那様以外に何も要らないと言うのに」


眉を顰めて、蒼褪めた表情で、自らの爪を噛みながら、チェーンソーを取り出す。

あぁ……クインシー。なんと言うか。情緒不安定とは思っていたけど。

こう思うのは、本気で俺の事を想ってくれる彼女に対して失礼だけど……。

面倒臭いなぁ……クインシー。


「……まあ、何にせよ。新妻さんの了承を得てからだな。大変だなお前も、俺はフリーターで良かったぜ」


いや、別にフリーターは関係ないのじゃないのだろうか?



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