第29話

『〈刻獄の間〉がクリアされました』

『報酬・上位職業〈時空者〉 武装甲〈遅滞秒針アウタータイム〉 召晶石100個』

『を入手しました』


スマホに記載されている情報を確認しながら、俺は久しぶりに見る空を眺める。

相変わらず赤と灰色の魔境の様な空だったが、この肌に感じる風の涼しさは依然として心地良い。


俺は後ろを見る。

〈刻獄の間〉は崩れて、建築物諸共平らになってしまった。

それがダンジョンの終わりなのだろう。なんとか俺たちは生き残る事が出来た。


「クインシー。お疲れ様、少しだけ休もうか」


そう言うが、クインシーは妬みを込めた目でこちらを見ていた。

まあ、無理も無いか、彼女は他の人間を〈楽園の箱庭〉に入れる事を拒んでいた様子だったし。

曰く、二人だけの愛の巣なのだから、他の人間を入れたくない、との事だ。

人命が掛かっているのだから、どうか聞き分けて欲しいと根気強く言った所で、ようやくクインシーは玄武さんを受け入れてくれた。

が、それが悪かったのだろうか。


「不機嫌などではありませんよ。ただ、また他の召喚獣をお作りになったのですね」


また……そうか、その事について怒っているのか。

〈時の歯車〉アルター。

俺はつい、無意識にそいつと契約してしまった。

これは断じて、俺は契約しようとは思って無かった。

あの契約は、まるで誰かに突き動かされる様にしてしまったのだ。


「………うん、否定はしない、けど。どれ程の召喚獣が居ようとも、キミが一番だから」


ありふれた言葉しか発する事が出来ない。

自分の語彙力の無さが此処まで情けないと思うなんて。


「……これはもっと、きつめのおしおきが必要でしょうか?」


ぺろりと、舌を出してこちらへと寄って来るクインシー。

あれ以上に凄い事が起こるのか、そう思った矢先だった。


「だめっ!やめてっ!」


と、甘ったるい声が響き出す。

スマホが振動して、出てきたのはイアネルだった。

宙を浮かぶイアネルは、俺の首に手を巻いて強く抱き締める。


「これ以上ダーリンを汚さないでっ!」


と、頬を膨らませながら彼女が言ってきた。

あれ?先程まで兄にと呼んでいた筈なのに。

何故、今はダーリン呼びになっているのだろうか?


「だってコクハクしてくれたもん、ネル、OKだから、ね?だから、ダーリンっ!」


肝が冷える。

冷めた目で俺を見るクインシー。

そして何処からともなく出てくるのはヴヴヴと音を鳴らすチェーンソーだった。


「躾は時に痛みを伴います……旦那様、少し遊び過ぎでは?」


カツカツとヒールの音が鳴り響きながら此方へと迫るクインシー。

これは、やばい、本気だ。

咄嗟にそう感じた俺は起死回生の一手を繰り広げる。


「来いッ!アルター!!」


そう叫ぶ。俺の命令に従い、機械歯車のアルターが召喚されると。


「〈そして残るは一つのみロスト・ワン・リザルト〉ッ!!」


俺は時を止めた。

イアネルもクインシーも止まったが、チェーンソーの刃だけは止まってない。

このままだと、クインシーが動き出してしまいそうだったから、俺はそのまま走って逃げだす。

怪我はまだ治って無いから体が痛い………


「カウントダウン」


え!?この能力時間制限があるの!?



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