第27話

そして気が付いた時には全てが終わっていた。

アルターは下半身と右肩から左腰に掛けて切断されていた。

ブシュウ、と黒い液体を流して転がる彼は今にも死んでしまいそうな状況で、近くに居たクインシーがチェーンソーを回転させながら俺の方に歩いてくる。

黒い血を浴びた彼女は白とは異なる色合いであるが、それがより一層彼女の美しさを強調させていた。


「さあ旦那様、罰を与えましょう、私の傍に寄って下さい」


俺は彼女の言う通りにした。

重たい体をあげて、ゆっくりと近づく。

言い訳はしない。と誓ったが、やはり死にたくないと思う自分が居た。

いや、せめて、チェーンソーで殺されるだけは勘弁だ。

そんな自分勝手な事を考えて、止めた。スマホを起動して、彼女、イアネルを収納する。


「私は旦那様が不貞を働いていないと信じています。先程の言葉も、私を呼び寄せる為に敢えてそう言ったのだと理解してます」


怖がる俺の顔を見てか、彼女はそう言った。

其処まで分かっているのならば、一瞬だけ、罰を受けなくても済むのでは、と思ったが。


「しかしそれはそれ、貴方が私以外の雌との求婚を行った事実が憎たらしい、なので二度とそんな口を、不貞を行おうとする口に、罰を与えなければなりません」


そして、彼女の手が俺の体を包み込むと、薄桜色の唇が、俺の唇を塞いだ。


「ん―――ちゅ、あふ、えはっ」


それはキスだった。初めてのキスに衝撃を感じたが、それは唇を重ねるだけのキスじゃない。

咥内を犯していく彼女の暖かな舌先。舌を絡めたり、唾液を交換したりして、彼女の蜜が毒の様に俺の脳内を痺れさす。


「ん、は………旦那様、愛してると言って下さい」


「は、え、んむっ?!」


口にする前に彼女の口が再び俺の口を塞いだ。

心音が高くなる。激しく内なる心臓の音、それを抑えるかの様に、彼女の体が密着して、俺は彼女に堪能され尽くされた。


「ふっ……さあ、旦那様、愛してると、言ってください」


頬を染めて、黒い瞳で俺を見つめる白銀の花嫁。

彼女が欲する言葉は、愛を囁く言葉しかない様子で。


「あ、あい、してる………クインシー」


まるで心を奪われたかの様だ。

彼女の行動は、空いた心の隙間に自分を差し込んでいる。


「はい……今回は、許してあげます」


満足する様に、クインシーは言った。

そして俺の顔を、頬を挟む様に手を添えて。

舌で自らの唇を舐め回すと瑞々しい彼女の唇が再び俺に近づいてくる。

そして三度目、もう頭の中がパンクしそうな、煽情的なキスをされた。

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