第26話
彼女の言葉。
俺に対する初めての憤慨とも言えるだろう。
「クインシー。キミは俺を許さないと思っているかも知れない、言い訳はしない。キミが望む様に俺を罰せば良い。けれど頼む、その罰は後にしてほしい。今は、あのボスを倒さなければならない」
彼女の怒りは俺の首筋にチクチクと感じてくる。
ヴヴヴ、とチェーンソーは、俺の方では無く、アルターの方に向けられた。
不貞を働いた男ではあるが、願いを聞いてくれるらしい。
それは慈悲なのだろうか、この戦いが終われば、無惨に斬り殺される自分の姿を想像して固唾を呑んだ。
「クインシー!相手は時を―――」
その言葉が急に停止した。
俺は、その一瞬に立ち会う事が出来なかった。
―――不貞、不貞、不貞。
私と言うものがありながら他の雌に現を抜かすとは。
これは一体、どの様な罰を与えてあげましょうか。
けれど、万が一、聞き間違いと言うものがあります。
これが終われば改めて事情を説明してもらいましょうか。
……いや、隣に居る女は一体誰なのでしょうか。
浮気相手……いや、旦那様がそんな筈、するはずがありません。
あぁ、そういう事ですか。
旦那様はあの雌に騙されているのです。
あぁ、危うい、何も言わず旦那様を斬り殺してしまう所でした。
そう言うワケで、旦那様の為に。
「貴方を
私の前には狼狽する機械が一体。
私から見れば雑魚に等しい存在です。
「ば、―――馬鹿なッ!既に、私の〈
あぁ……狼狽えているのはそういう事ですか。
何故、静止した時間の中に、私が動く事が出来るのか。
不思議でならないのですね?
簡単な話です。
此処に来るまで、私は多くのマネキン人形を相手にしてきました。
時に自身を加速する能力を持つマネキン人形。
時に空間を停滞させる能力を持つマネキン人形。
それらを相手にして、大方時間系操作能力を持つモンスターなのだと察してはいました。
そして旦那様の元へ駆け付けた時。
旦那様は慌てた様子で私に何かを告げようとしてました。
基本的に緩やかな喋り方をする旦那様が早口で発しようとしていた。
それはつまり早めに口にしなければ手遅れになる。
あるいは、能力の影響下に陥る為に、早めに私に能力を告げたかったのだと推測出来ます。
このダンジョンの殆どは時間系操作のモンスターが多い。
ならば……推測されるダンジョンボスの能力は時間を停止する事だと理解しました。
空間干渉能力に属するのならば、私のチェーンソーで無効化出来ますが……如何せん時間が掛かります。
その時間で相手に攻撃を受ける事など、私の矜持に傷が付きます、なので今回は別の手段を取らせて貰いました。
「〈
もしも空間に作用して時間を停止させるのならば。
時間を止める寸前に別次元に移動していた私は、その影響下に入るのでしょうか?
空間はあくまでも自身が存在している空間を対象にしています。
アニメのキャラクターが現実の人物に攻撃する事は出来ない様に。
別次元に滞在した私はその影響下には入らない。
「さて……貴方に質問しましょう。停止した時間の中で、時間の加速、時間の停滞は出来るのでしょうか?」
「ッそ、れは―――」
「答えは『出来ない』ここは時間が『停止』された空間。時間とは流れるもの。加速も停滞も流れるものに作用する。けれど、流れていない世界に加速も停滞も存在しない」
ならば。この後どうなるか。
目の前に立つのは鉄くずを着込んだ生命体。
私のチェーンソーの前では、恐れるに足りない。
「〈
結果、切り刻まれて、ガラクタが完成する。
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