第25話

「はぁ……はぁ……」


先程の一撃、いや、確実に三発以上は喰らっている。


「いたぃ……ぃたいよぉ~」


俺の傍に居たイアネルが泣いていた。

彼女の頬は赤く腫れあがっていて、地面に横たわってお腹を押さえている。


「き、ひゃ。はははっ、はははっ!」


玄武さんは流石だ。攻撃を受けても未だに活動している。

いや、あのアイテムによって痛みを感じないだけだ。

常人なら動くことさえ出来ない大怪我に違いない。、

その証拠に彼の腕は折れていた。レザーコートを突き破って骨が見えていた。


「クソ、頑張らないと……」


けれど他の召喚獣は破壊されてしまった。

わが身だけで頑張る他無い。俺はイアネルに近づいて〈潮流血騒エナジー・ドーピング〉を行う様に求める。

だが、俺の意志を削ぐ様に、嫌な声が聞こえ出した。


「〈そして残るは一つのみロストワン・リザルト〉」


咄嗟になって、俺は近くに居たイアネルを守る様に抱き締めた。

そして、俺たちの時は止まる。動く事が出来るのはアルターのみ。


気が付いた時、俺は壁に叩きつけられていた。

近くには、イアネルも俺に縋る様に抱き締めている。

玄武さんは、どうなった?俺は周囲を見渡して、地面に横たわる彼の姿を見つけた。

地面に血を撒き散らして、もう死んでいるのだろうか、微かに生きているのだろうか。

生死不明な彼の姿は、見るに耐えない姿だった。


「うぅぅ~……」


涙を流しながら恐怖に震えるイアネル。

俺はそんな彼女を抱き締める事しか出来ない。

せめて、近くに居る人間は救ってあげたい。そう思って俺はスマホを取り出す。

もしも俺の能力で彼女を収納して殺されてしまえば、彼女は俺と共に消滅するのだろうかと思った。

ならばスマホの方に彼女を保管すれば、俺が死んでも彼女は消滅しないのかも知れない。

そう思ったからだ。

召喚獣保管庫を確認して、ふと彼女の情報が見えた。

〈血染めの花嫁〉クインシー・キルライン。

もしも、彼女が居れば………まだこの状況は覆ったかもしれない。

過保護に近い彼女の愛は、今にして見ればこれ程無いまでの居心地の良さだった。

もう彼女にも会えない。そう思うと恋しく思える程に。


「………あ」


彼女のテキストを確認する。

『花嫁に憧れたクインシー・キルライン。

彼女の愛は無邪気な悪意であり、一度愛した者は地の果てまで追い掛ける。

同時に、彼女を裏切る者は、例え何処に居ようとも追い続け、チェーンソーで切り刻まれる』


と、そう書かれていた。

何処までも追い続ける、ありえない話じゃない。

彼女はチェーンソーで次元を裂いた。

そして彼女のチェーンソーはあらゆる種族を首切りにする処刑の鋸。

もしかすれば……俺は、そう考えて。

近くに居るイアネルと目を合わせた。


「………イアネル。聞いてくれ」


彼女の涙を拭って、俺は真剣な眼差しで彼女を見つめる。

泣いている彼女は静かに、俺の顔を見てその言葉を待ち侘びた。


「キミが好きだ、俺と結婚して欲しい」


それは不貞の言葉だ。

愛する者を裏切る最低な言葉。

彼女の応答関係無く、その言葉があれば、彼女に届くと信じて。

そして。ヴヴヴ、とチェーンソーのエンジン音が響き出す。

鋼の壁を突き破るチェーンソーの刃。壁を切り裂いて、其処に現れるのは花嫁姿の女性だった。


「は?」


そして彼女は、俺を見るなり、侮蔑する様な視線で睨んでいた。

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