第21話
「助かった」
いや、助かったようには見えない。
彼のレザーコートは切り裂かれて肌が見えるし、その肌には血は止まっても、未だに生傷が垣間見える。体が動かせる様になったから、自分のスマホを操作して〈回復薬・小器〉を飲んでも全快はしていない。
「あ、あの、俺、
羊の様な髪の隙間から黒い眼が見える。
どうやら、俺みたいな子供がこんなダンジョンに居るのが驚いていたのだろう。
「俺は
全然フリーターには見えない。どちらかと言えば、バイクに乗ってそうな雰囲気がある。
「えっと、玄武さん、ダンジョンの出口って分かりますか?」
聞いてみるが、多分俺が望む答えは出てこないと思う。
そして案の定、彼は首を横に振り、更にはとんでもない事を口にした。
「此処は出口には程遠い、むしろ、終着点とも言える。ダンジョンの醍醐味、ボス戦前だ、此処は」
……ボス。
ダンジョンを管理し、ダンジョンを維持する為に存在する、ダンジョンの要にして核的存在。
多分、俺が一番出会っちゃいけない存在だ。危険度Sのダンジョンボスなんて、立ち合った所で負けが濃厚。いや、絶対とも言える。
「なんだお前ら、此処から出たいのか?」
玄武さんは俺の顔を見て言った。
俺は頷いて、一刻も早くこの場を立ち去りたい事を告げると。
「なら、手っ取り早い方法がある。この先に居るボスが居るんだが……そいつを倒せば出られるぞ」
「な、いや、それは分かってます、けどっ!危険ですよ?!」
基本的にダンジョンのボスを倒せば、ダンジョンはクリアも同然だ。
だって、ボスはダンジョンの核であり、全ての権限を持っている。
当然ながら、ダンジョン内のモンスターを維持しているのもボスで、ボスを倒せば帰り道はただの迷路でしかない。
しかし、先ほども言ったが、此処は危険度Sのダンジョンだ。当然ながらダンジョンボスはかなりの実力を持っているだろう。
「一緒に挑む気はねぇか?」
「な、ないですっ!其処まで命知らずじゃないんですから!!」
そう叫んだ。玄武さんは首を縦に振ってそれもそうか、と呟く。
「なら、そこに居る浮遊しているお嬢ちゃんはどうだ?」
玄武さんは手を伸ばして、イアネルに触れようとする。
しかし、イアネルはそんな玄武さんの手を嫌そうな目で見て、触ろうとする手を叩いた。
「汚いっ!」
初対面でなんて事を言うんだイアネル。
手を叩かれた玄武さんは大人しく手を引っ込めて。
「……ま、まぁ、嫌なら、良いんだ、あぁ……別に……」
分かりやすい程にショックを受けていた。「……そんな汚いか?」ま、まあ、血だらけだし、仕方ないとは思うけど。
「けど、一つだけ言える事がある。ダンジョンってのは、大抵地上から地下に潜る。なら上を目指せば出口があるだろう……だが、お前、此処に来るまで、何人のモンスターと戦ってきた?」
……その質問に、俺は指を一本だけ立てた。
「一体か、そいつ、どうだった?強かったか?」
「………はい、かなり苦労しました」
マネキン人形を倒す為に空間転移すら使ってしまった。
このダンジョンの通路に徘徊していると言う事は、少なくともアレで雑魚モンスターなのだろう。
「戻った所で、苦労して倒した雑魚が沢山居る。そいつらを相手に、出口まで戻る事が出来ると思うか?」
……かなり難しい。あれらは別格の強さだ、出来る事ならば、連戦は避けたいと思う程に。
「なら、選ぶしかねぇ、出口が何処にあるのかも分からず、強力な雑魚を何体も相手に立ち向かうのか、この先に居るボスを倒して、確実に安全に雑魚が消えた迷路を進んで出口を見つけるか」
…………どちらを選んでも、死ぬ確率は高い。
ならば、選ぶべき道は一つしかない。
「何か、勝算はありますか?」
「坊ちゃんの持つ武装甲次第だな」
そうして俺たちは、ボスに挑む準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます